2001年6号

国連気候変動枠組条約 第7回締約国会議(COP7)の概要

 2001年10月29日から11月10日までモロッコのマラケシュで国連気候変動枠組条約第7回締約国会議(COP7)が開催され、また同時に締約国会議の補助機関であるSBI(実施のための補助機関)とSBSTA(科学上また技術上の助言のための補助機関)の第15回会合も行われた。



 9月11日の米国での同時多発テロ事件後初めて開催されるイスラム圏で国際会議であるCOP7は直前までその開催を危ぶむ声があったが、軍隊も警備に当たるなど厳重な警戒態勢の中、170を超える国から約4,500名というCOP6再開会合とほぼ変わらない規模の参加者が出席して予定通り開幕した。

 COP7では、COP6再開会合で採択された京都議定書の中核的要素の政治合意(ボン合意)に基づいて議定書の運用ルールを法的文書にする作業を中心に交渉が行われ、会期を延期して11月10日早朝まで続いた閣僚会合での交渉の結果、議定書の包括的な運用ルール(マラケシュ合意)が採択された。また、最終日には2002年9月に南アフリカのヨハネスブルグで開催される持続可能な開発に関する世界首脳会談(WSSD)に向けて、気候変動に対しての行動が持続的な開発を可能にすることを強調し、能力育成や技術開発そして生物多様性や砂漠化防止条約との協調を呼びかけた「マラケシュ閣僚宣言」が採択され閉幕した。

 この結果を受けて、1997年から約4年に及んだ議定書の交渉は「新たなステージ」(川口大臣のコメント)に入り、3月にブッシュ大統領が離脱宣言をし今回も静観の立場に終始した温室効果ガス排出大国の米国抜きでの議定書の2002年発効に向けて、各国が国内制度の整備を本格化することになった。ここでは、主に交渉の焦点となった部分を取り上げて報告する。



<交渉内容>

 今回のCOP7は議定書の採択地である京都府知事・京都市長らの連名による参加者への激励のメッセージで幕を開けた。開式プレナリーでモロッコの環境大臣のエルヤズギ氏が議長に就任し、初めてのアフリカ開催のCOPで議定書の最終合意が成立させることに強い意欲を見せた。
 COP6再開会合で最終合意を得られなかった「遵守」「京都メカニズム」また、交渉が進まなかった「5.7.8条(排出量・吸収量の推計、報告、審査)」については、それぞれ交渉グループが形成され11月7日の閣僚会議に向けてCOPの決定書の草案づくりが行われた。各交渉グループは争点となる項目についてさらに草案作成グループや非公式グループを形成し長時間にわたり交渉を実施した。7日に始まった閣僚会合後もメカニズムと5.7.8条グループは交渉を重ね、会期の9日を過ぎて10日の明け方まで閣僚による最後の交渉が続いた。

 交渉が難航した閣僚会合では、調整役からの提案に対して、日本、ロシア、カナダ、オーストラリアが最終段階まで合意せず、環境NGOはこの4ヶ国を妥協の意志を持たない「ギャング」と非難した。最終的には法的拘束力のある遵守制度の受入をメカニズムに参加するための資格条件にしない形でEU、途上国側が妥協し11月10日早朝に最終的な合意が成立した。

 個別の問題をみてみると、まず遵守問題については締約国が義務に対して不遵守だった場合の措置に法的拘束力を持たせるかどうかが論点となった。ボン合意の遵守制度による措置は法的拘束力を持ち、議定書発効後の議定書締約国の会合として機能する第1回締約国会議(COP/MOP-1)でその採択のみを行うと主張するEU、及び途上国と、法的拘束力を持つかどうかはCOP/MOP-1に決定を委ねるとする日本を含むアンブレラグループは初日から鋭く対立したが、EU、途上国側が妥協しアンブレラグループの要求通りの形で閣僚会合前の11月6日に合意された。一方、締約国の義務の履行状況に対する第三の締約国の疑義の申立の可否については、EU、途上国側の主張通り申立可能になった。さらに、遵守委員会促進部及び執行部の情報は原則公開となった。

 5.7.8条問題では、割当量の計算方法や発行・移転方法、登録簿要件等が決定された。排出量・吸収量の推計、報告について締約国は、温室効果ガスの排出量・吸収量の算定の目録、メカニズムの使用が国内活動に補足的である情報、また削減活動ための政策や措置の他の締約国に及ぼす悪影響に関する情報の報告などが義務づけられた。このうち、温室効果ガスの排出量・吸収量の算定の目録については、情報の報告が不履行だった場合にはメカニズムの使用資格が失効することになった。

 メカニズム使用に関しては、COP7では削減目標達成のための単位として従来からの割当量(AAU)・CDM及びJI(共同実施)によるクレジット(CER・ERU)とは別に、途上国の提案により吸収源活動による吸収量をRMU(removal unit)とすることになった。締約国の登録簿内の約束期間留保の水準維持は義務となり、これを割り込む移転は禁止され、もし水準を割り込んだ場合には30日以下に回復することとされた。割当量やクレジットの移転問題、いわゆる互換性(fundability)についてはRMUを含む全ての割当量やクレジットが移転可能となった。割当量やクレジットの次期約束期間の繰越いわゆるバンキングは、AAUsは無制限、CERs・ERUsは初期割当量2.5%まで、RMUsは不可となった。

 CDM理事会には日本から(財)地球環境産業技術研究機構顧問で元通産相審議官の岡松氏が選出され、11月9日の第1回会合で副議長に任命された。CDM事業については、2005年12月までに指針に沿った登録手続をすれば、最大2000年まで遡及してCERの資格期間を得られることになった。CDM吸収源活動についての指針は今後引き続き検討されることとなった。JI(共同実施)については、ERUを得られるのは2008年以降であるとされた。

 議定書発効の鍵を握るロシアの自国の吸収源の上限量緩和提案は、最後の段階で要求通り33百万トンCへ引き上げが認められることとなった。

 メカニズムの使いやすいルールづくりを目指した日本政府としては、合意内容は「日本にとっていい内容」(川口大臣)と評価している。中国は閉会プレナリーでこの合意のため途上国は「大きな犠牲」を払ったと語った。一方、ワシントンポストは、ブッシュ大統領は温室効果ガスの排出削減の必要性を認識しており、引き続き気候変動の長期にわたる問題を科学ベースのアプローチで取り組むとの声明を報じるとともに、今後も国際的な制度に米国が参加を拒み続けられるのか疑問視する共和党議員の意見も伝えた。環境NGOのグリーンピースは「貧しい分け前だが価値がないということではない。最初のステップだ。」とCOP7の合意を評価している。



<日本政府の今後の動向>

 COP7終了後、小泉総理大臣は早速地球温暖化推進本部を開催するとともに、今後も「全ての国が一つのルールの下で行動すること」の重要性を強調し、米国や途上国への参加の呼びかけを示唆した。これを受けて11月12日に開催された地球温暖化対策推進本部では、今後の本格的取組として「地球温暖化対策推進大綱」の見直しや、次期通常国会(2002年1月)に向けて議定書締結の承認及び議定書の締結に必要な国内制度の整備・構築のための準備を本格化することとともに、地球温暖化対策の推進に当たっては、環境と経済の両立に資するような国内制度の整備・構築を目指すこと、今後も米国に引き続き参加と開発途上国を含めた国際的ルールが構築されるよう努力することを決定した。また、経済産業省では国内対策を本格化するため、局長級で構成する京都議定書国内対策本部が設置され平沼大臣を本部長とし11月12日に第1回会合を開いた。

 COP7での合意からの一連の動きで報道機関は一斉に「政府批准を表明」と伝えたが、政府は公式には「批准」についての慎重な姿勢を崩していない。また、経団連の今井会長は早速コメントを出し、「米国が参加せず、中国、韓国、インドなどの将来の参加も約束されない議定書を、現在の日本の厳しい経済状況を勘案すれば、性急に批准・発効させる必要はない」とし「世界各国が参加する統一ルールの策定」を強く求めるとともに、削減目標達成のための規制的な措置に対して警戒感を強めるなど依然として産業界の反発は強く、難航することが予想される今後の国内制度づくりが注目される。
(高橋 浩之)

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