2002年6号

観光立国による わが国社会システムの変革

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日本から海外への旅行客は年間1700万人に達しているのに、海外から日本への旅行客は年間440万人とかなりの落差があることは長年指摘されてきた。フランスの外国人旅行客数が7000万人と最大であり、それには遠く及ばないが、アジアにおいても中国や韓国よりも少ない。しかし、これは国家プライドの問題ではない。国家経済の問題である。

アメリカは5000万人近い外国人観光客が訪れ、約10兆円の外貨収入がある。これに比べると日本の外国人観光客からの収入は一兆円に満たない。しかも、現在、6兆円規模の国内観光はすでに飽和に達している。観光分野が成長するには外国人観光客に期待せざるを得ない。

外国人の日本観光が成長することは、観光収入が増えるという直接的な効果だけではない。日本経済にとって、もっと重要な意味がある。今後の人口減少社会において、定住人口だけに依存していると市場は縮んでいく。それに対する対策はいくつかあるが、非定住人口をふやすこともそのひとつである。東京都や大阪市等の大都市経済が昼間人口という非定住人口にかなりの部分支えられていることを考えるとその意味が理解できるであろう。

ということは観光を伝統的視点からだけで捉えていると、観光市場だけの成長にとどまってしまう。もっと観光を厚みのある捉え方をしないといけない。そのポイントはリピーターをできるだけ確保することである。製造業、非製造業を問わず、リピーターが多いことは顧客獲得のためのマーケティングコストが大幅に下がることを意味するとともに、付随ビジネスを作り出していくことにつながる。

単に団体旅行をパッケージして大量処理しているだけではそのような波及効果は期待できない。一見さん相手の満足度の低いサービスが蔓延する、多くの旅行者は二度と帰ってこない、ひたすら一見さんに頼ることになる・・・という悪循環に陥ってしまう。そうではなく、何度も日本を訪れることによって、団体から個人、短期から長期、セットメニュー的観光地めぐりからテーマ別の観光、あるいは滞在というように展開し、かつて日本人がハワイに別荘を買い、イギリス人やアメリカ人が南フランスやポルトガルにシャトーやヴィラを買ったように、日本に不動産を持つ外国人が増えることも期待し、受け入れてよいのではないだろうか。

このように考えていくと、何度も日本を訪れ、より深く日本に関心を持つという「マイグレーション・パス」に外国人観光客を誘導し、常に満足してもらうことがシステマティックに組み立てられないといけない。それは観光システムという「社会システム」の設計である。

「社会システム」をここで定義しておくと、「最終ユーザーに対する価値提供システム」であり、結果として産業横通しのシステムである。その意味は産業立国論的発想からの決別である。ヘルスケア・システムが医療産業とは異なるように、当然のことながら、観光システムは観光産業とは大いに異なる。輸送や宿泊だけでなく、金融や保険、不動産、医療等も絡むシステムなのである。なぜ医療か。例えば、日本での治療、温泉などの療養、リハビリ等の質の高さを売り物に外国人の長期滞在等も考えられるのではないだろうか。

では「社会システム」としての観光システムを設計するとき、対象となる観光客を決め、観光客セグメントごとのシステム設計が必要であろう。この場合、もっとも大きなセグメントはアジア各地の華僑、中国本土の中国人、そして、韓国人であろう。彼らが3000万人の規模で日本を訪問するということを前提に組み立ててはどうだろうか。裕福な華僑はアジア各地にすでに多く存在する。彼らはすでに、日本各地の温泉やスキー場にかなり目立つようになってきた。

中国の経済発展を考えると、今後は中国の一般大衆のレベルで海外旅行が人気を博するのは必然といってよいだろう。そのときに日本に興味を持ってもらう必要がある。例えば、かつての日本の高度成長が日本の環境を破壊したように、中国もその経済発展のマイナス面として国の自然環境の破壊が進むだろう。そういう環境の中で、仕事に疲れた中国人が圧倒的に緑豊かな、独特の風情のある日本に心と体の癒しを求めて訪れるようになることは十分考えられる。そのような観光客を対象とした明確なシステムが日本に必要だ。

「社会システム」は一度で完成するということはない。繰り返しによる試行錯誤が一定量以上必要である。したがって、ここに述べているようなシステムは一応の姿になるまでに10年以上はかかるであろう。それは、中国の経済発展による豊かな中産階級が大量に出現するにかかる時間でもある。ちょうどタイミングはいいのである。今からその設計を開始すべきであろう。しかしそれは官が法律をいくつか作ることではなく、全体観を持ったマスター・アーキテクト、あるいは社会システム・デザイナーとそのチームが必要であることに目を向けてほしいのである。

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