2004年5号

IPCC産業技術の開発、移転、普及に関する専門家会合 参加報告 2004年9月21-23日 東京

 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の主催による、「産業技術の開発、移転、普及に関する専門家会合」が9月21日~23日の3日間、東京(都市センターホテル)で開催された。日本での開催は、経済産業省及び関係者からのIPCCに貢献したいという熱意と強い働きかけにより実現したものであり、弊所は、ローカルオーガナイザーの一員として本会合の開催に携わったものである。

 本会合では、IPCC第3次報告書(TAR)で産業界の意見が反映しきれなかった反省から、産業界の関与拡大を図りつつ気候変動への取組みを促進することをめざし、IPCC議長、IPCC・WG3共同議長、産業界の代表、IPCC第4次報告書(AR4)執筆者で産業技術が関与する章の担当者、産業界のエキスパート、学界関係者等、約90名が参加し、白熱した議論が行われた。主な結論や成果を簡単に紹介する。(より詳しい情報は、http://www.ipcc.ch/calendar.htm のMeeting reportをご参照下さい。)

全体会合風景

1. 会合概要
  全体会合(21日)
    産業技術環境局 齋藤局長、IPCC議長R. Pachauri氏の挨拶により開会。我が国からは、トヨタの渡辺専務、電事連の桝本副会長、電中研の杉山氏の講演があった。
 

グループ会合(21日夕~23日朝)
    30名弱ずつ3つの産業分野グループに別れて、討議を行った。
  1. エネルギー集約型産業
(鉄鋼、軽金属。セメント、化学、製紙等)
  2. エネルギー多消費型消費財製造業
(自動車、エアコン、電灯等)
  3. 発電、エネルギー輸送
(石炭、ガス、原子力、再生可能エネルギー、バイオマス、LCA等) 
 
それぞれの分野で議論する主要課題は以下の通り
  1. 産業技術開発を促進する要因は何か
  2. 技術移転と普及過程の促進あるいは障害となる要因は何か
  3. 将来の技術のコストと市場の潜在性を正確に評価する方法は何か
 

全体総括(23日)
    それぞれのグループでの議論の結果について報告がなされ、質疑討論を行った。
 

産業界からは、IPCC評価報告書に係る今後のプロセスへの継続的な関与について強く希望が示された。
  本会合に於いて、これまで希薄であったIPCCと産業界を代表する専門家との情報ネットワークの基礎が形成することができたことは高く評価される。
  今後の評価報告書作成に直接あるいは間接的に寄与するという観点から、産業界を交えたワークショップや会合の開催、データベースの共有化、国際的な業界団体との協力などにも言及がなされており、今後の産業界の関与の促進が期待される。
  産業技術の開発促進については、競争原理の活用や政策的関与や市場の影響などがあげられた。一方、技術移転及び普及に関しては国や地域の特色が大きく影響すると同時に、産業界の中の多様性にも大きく左右される。技術の保有側と受ける側との間で、知的財産権についても慎重に取り扱わなければならないことなどが指摘された。
  IPCCの評価は、政府の技術、経済政策の基礎として提供されることから、産業界に与える影響は大きく、産業界の関与を深めることにより、IPCCの評価を向上させ、結果として産業及び社会によりよい貢献がなされるものと思われる。
  なお、具体的な成果物としては、会合のサマリーと査読を受けた論文集および資料が11月以降に公表される予定。

2. 所感
 この会議では何より世界から集まった様々な参加者たちが活発な意見交換を行い、人的交流が図られたという点で意義深いものとなった。この場だけに留まらず、AR4の執筆者と産業界の各セクターを代表する企業、団体からの代表者、専門家との間でのコミュニケーションがより広がり、両者での人的及び産業界が持つ膨大な情報とのネットワークの構築に繋がることを期待したい。

(文責:地球環境対策部 角野 光治)

▲先頭へ