2005年5号

平成17年度「産業社会のリスクガバナンスと安全文化」研究委員会


問題意識

   安全に関する社会の関心は著しく高まっている。大規模な自然災害の脅威やテロの脅威など、さまざまなリスクに曝されている、との意識の浸透がこうした機運をもたらす一因とされているが、一方で、企業の操業に伴う災害や提供する製品・サービスに由来する事故など社会的影響の大きな事例も発生し、日本社会の安全基盤の揺らぎを指摘する声も聞かれる。

 企業の経営環境は市場のグローバル化、製品技術の高度化をはじめ急激な変化を見せ、消費者社会の側もまた、消費意識と消費行動において急速な変容が進む中、社会全体として従来からの安全への理解と取組みを超える新たな考え方とその実践が求められている。

 製品やサービスの安全について、国の定める基準やガイドラインを企業が遵守しつつ製品を提供する、いわば政府と企業とで消費者の安全を確保するこれまでの構図から、この安全の確保に消費者自身も自律的に関ってゆく構図へのシフトが見込まれる。

 これまでは、企業は「絶対安全」を謳い、消費者は企業に「絶対安全」を求めていたが、すべての製品・サービスに「絶対安全」を求める事はできないとの認識が、企業にも消費者を含む社会全体にも浸透しはじめている。

 今後は製品・サービスのリスクとベネフィットの相対評価、「相対安全」の概念と理解に基づき、企業と消費者がリスクとベネフィットをどのように共有できるかが社会の安全基盤の強化、安全文化の進化の課題となる。


研究の狙い

   企業と消費者とがリスクとベネフィットを共有するためのアプローチとして、製品・サービスの安全関連情報の開示、科学的な評価、及び対話を経ての情報共有といったプロセスが必須とされるが、現在のところ、こうした開示,共有が広く普及しているとはいい難い。

 本研究では、企業による情報開示、企業と消費者社会との情報共有を如何に促す事ができるのか、を主題に据え、産業界が実際に情報開示に取組む中でいかなる課題を抱えているのか、また開示情報を受取る消費者社会の側からどのような問題が指摘されるのか、そうしたさまざまな課題に対して、企業、消費者、政府、或いは専門家の立場から解決に向けてどのような関り、取組みが可能なのか、さらにその取組みを支援・促進するためにどのような環境整備が必要なのか、などを明らかにしつつ、その具体的方策を探ってゆく。
研究委員会名簿
(敬称略,五十音順)
    氏 名   所属・役職
  委員長 田村昌三   横浜国立大学 安心・安全の科学研究教育センター 教授
  委  員 池田三郎   (独)防災科学技術研究所
総合防災研究部門 客員研究員
  委  員 井上 洋   (社)日本経済団体連合会 総務本部 副本部長
  委  員 小出五郎   大妻女子大学教授家政学部 ライフデザイン学科長
  委  員 小島直樹 (社)化学工学会安全部会
(石油コンビナート高度統合運営技術研究組合)
  委  員 小杉素子   (財)電力中央研究所 社会経済研究所 主任研究員
  委  員 重倉光彦   (独)製品評価技術基盤機構
化学物質管理センター 所長
  委  員 身崎成紀   東京海上日動リスクコンサルティング株式会社
リスクコンサルティング室
製品安全マネジメントグループ 主任研究員
  委  員 緑川芳樹   グリーンコンシューマー研究会 代表
  委  員 宮本一子   (社)日本消費生活アドバイザー・コンサルタント協会
消費生活研究所長


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