2009年3号

高速道路千円乗り放題に想う

morikawa1

 2009年3月28日からいわゆる「高速道路休日千円乗り放題」が始まった。景気対策という錦の御旗の元に、専門家や利用側関係者との議論もまったくなく唐突に打ち出された政策である。もとから休日に乗用車で長距離ドライブをしていた人にとっては「棚ボタ」のうれしさであろう。一部の観光地やアウトレットショップなども客足が増え、景気対策にマイナスかプラスかといえば、少なくともマイナスであることはなかろう。また、ETC車載機がバカ売れして、製造メーカーや自動車用品ショップも喜んでいることであろう。

 しかしこの政策が(よく分からない「埋蔵金」であれ)税金、つまり国民が少しずつ供出してプールしたお金を財源にしていることを忘れてはならない。例えば、これまで往復5千円かかっていた高速料金が往復2千円になった人のことを考えよう。乗り放題以前から高速道路利用していた人は、税金で補填されて「浮いた」3千円を景気高揚のために有効に使ってもらわなければならない。乗り放題によって「誘発」されてどこか観光地に出かけた人は、税補填された3千円を観光地などでやはり「有効に」使わなければならない。本当のこの税補填分が有効に使われ、結果として総税金投入額以上の景気高揚効果が生まれているのかはなはだ疑問である。報道でも「お金は使わずドライブだけした」という利用者や、「売り上げはほとんど変わらない」という観光地の商店の声を聞けば、乗り放題、つまり税金投入によって「無駄な」交通も生み出していることも事実である。

 次に、道路の利用には「混雑」という外部不経済が起きることを真剣に考えていたのであろうか。経済学的に「混雑」は、一人一人の利己的動機による利用増加が、混雑によるサービス低下(例えば所要時間の増加)という形で利用者全員に迷惑を掛けるという、まったくの「無駄」な現象であることが知られている。この非効率を避けるために「混雑税」を課することによって、社会的により無駄の少ない交通状況を作る試みが世界中で始まっている。今回の乗り放題は、この流れにまったく逆行するものである。また、突如出現した休日の大渋滞が、今回の政策の恩恵を被らないトラックや高速バスの運行を著しく阻害していることも挙げておかなくてはならないであろう。

 そして誰しもが心配するのが、環境負荷の増大である。ここ二十年あまり、交通政策の分野では、二酸化炭素排出量の効率性において自家用車の約十倍も高い鉄道へシフトするように、また限りなく二酸化炭素排出がゼロである徒歩や自転車の利用を促進するようにと不断の努力をしてきた。国内も世界も、総論においては、二酸化炭素排出量の加速度的削減が叫ばれている。その中でこの乗り放題政策は、「自動車に乗ってどんどん遠出をしましょう」というものである。一方で省エネ家電に「エコポイント」をつけた景気対策を行なっている政府の政策一貫性は説明可能なのであろうか。

 恐らくは、景気後退の劇的な影響を受けている自動車及び自動車部品メーカーへの配慮、ETC利用者を限りなく100%に近づけたい国交省の意向、そして何よりは「高速道路無料化」を掲げている民主党を念頭に置いた現政権の国民向けスタンドプレイ、といった「政治的」理由が大きいのであろう。民主党政権になり、高速道路が本当に無料化されたときのことを考えて、メーカーはETCの増産も控えつつあるとも聞く。これまで国民に「ETC車載機を付けましょう」と大号令を掛けて購入させてきた落とし前はどうつけるのであろうか。ちなみに筆者は、利用者負担の原則、今後の道路メンテナンス費用の大幅増加や二酸化炭素排出量の増加などを考えると「高速道路無料化」には反対である。

 政治の横暴さ、顔の見えない声の聞こえない官僚、そして我々専門家の無力さをひしひしと感じたここ数ヶ月であった。

 

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