2012年1号

地球産業文化研究所 年頭提言 日本を世界へ、世界を日本へ

fukukawa

 多事多難であった2011年が過ぎ去り、緊張のうちに2012年の新春を迎えた。内外ともに政治、経済の両面において不確実な要因が漂っている。

 東西冷戦終結以来その進展が期待されてきたグローバリズムは欧州に端を発した信用収縮と景気後退や米国の経済停滞で、すっかり推進力を失っている。2011年12月には世界貿易機構(WTO)が新ラウンド交渉の断念を宣言する事態にまで追い込まれた。

 主要国は、景気拡大に向けて金利引下げ、財政支出拡大など伝統的な手法を活用して懸命の努力を続けているが、なかなか苦境から抜け出せない。これを打開するには、主要国が技術体系のイノベーションを加速し、社会システムを改革し、競争条件を整備しなければならないが、世界は未だこうした「新しい成長」の模索段階にある。

 日本では、1990年のバブル崩壊後の20年間、政治機能が停滞し、企業が現状維持に徹し、国民も内向き志向に陥った。海外の友人が、「中国、韓国、台湾の人々が海外で活躍しているのに、日本人はどうしているのか」と皮肉混じりに忠告してくれる。

 資源や食料の多くを輸入に頼る日本は、海外との自由な交流なしに経済を維持しえない。日本は、2010年に経済規模でこそ中国に抜かれたが、中国に次いで1.04兆ドルの外貨準備を有し、対外純資産では3.04兆ドルで、世界最高の水準にある。加えて経常収支では、2000年ごろから所得収支が貿易収支を上回る構造なっている。最近の円高や企業環境の劣化から企業の海外移転が加速し、国内の空洞化が懸念されているが、むしろ、こうした環境を活用し、技術力の充実と相俟って海外投資やM&Aを促進し、事業を海外に積極的に展開していけば、海外の有効需要を刺激し、同時に日本の所得の増加を図り得ることになる。

 世界は、今後FTAなどの地域連携への傾向を加速するであろう。残念ながら、日本は、これまで多国間交渉にこだわり、その傾向に遅れをとってきた。貿易に占めるFTA、EPAの割合は、発効、署名済みのもので米国38.0%、EU(域外)27.2%、韓国35.8%、中国21.5%となっているのに対し、日本は17.6%に止まっている。とりわけ韓国は既に米国、EUとFTA協定を結び、中国とも交渉中という。

 野田内閣は、2011年11月に開催されたAPEC閣僚会議で漸くTPP(環太平洋経済連携協定)の交渉に入ることを言明した。さらに2012年からは、日中韓FTAの交渉を開始すると伝えられている。日本としてはこれを契機に対外環境の整備を一層加速し、「日本を世界に」の動きを積極的に展開して欲しいものである。これこそが日本の潜在能力を高める最大の方策である。これをめぐって農業団体や医療関係者から反対の声が上がっているが、市場経済の高度化の実現のために是非交渉を成功に導いて欲しいものである。

 日本経済の足腰を強くするには、同時に優れた外国企業や外国人を積極的に日本に導き入れなければならない。「世界を日本に」である。外国企業の日本市場での活躍は、技術革新、商品開発、経営改革を促す。優秀な外国人の活躍は、日本の知的活動を刺激する。同質的な社会集団からは新しい発想が生まれにくいといわれており、これらの導入は日本の不利を超える道なのである。

 海外企業の日本への投資水準は、伝統的に低い。しかも、最近では日本の企業環境の悪化から、香港、シンガポールなどへ移転する海外企業も多い。ちなみに、対内直接投資のGDP(国内総生産)の比率を見ると、日本は4%前後で、欧米諸国が30~50%であるのに対して極端に低い。中国、韓国、インドでも10%近い水準にある。重い企業課税、著しい円高、厳しい環境目標、高い電力料金、低い語学力などが外国企業に敬遠される理由であるが、これらの社会条件をグローバル・スタンダードに接近させなければならない。

 「日本を世界に、世界を日本に」。私は、これこそが日本が人口減少などの社会条件の不利を克服して成長を続ける唯一の途であることを強調したい。

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