気候変動緩和策の政策と措置に関する国際会議(1997/1/28~29、京王プラザ)


基調講演
「技術報告―技術・政策・措置と今後のIPCCの活動」
IPCC次期議長 ロバート・ワトソン博士


去る1月28、29日の両日、新宿の京王プラザにて「気候変動緩和策の政策と措置に関する国際会議」が開催された。本稿は会議冒頭に行われたワトソン博士の基調講演の抜粋である。セッション1「技術移転」、セッション2「排出権取引」セッション3「各国の政策・措置」の内容については次号に掲載予定。

1. IPCCの基本的活動と目的

 IPCCの基本的な活動について報告させて頂きますとともに、私のIPCCの対しての抱負についても述べさせて頂きます。

 まず、温室効果 ガスの濃度を一定のレベルに下げなければいけない。そうしなければ、人間に対して、人遺伝子に対しても影響が出てしまう。それに影響が出ないレベルで押さえなければいけない。そしてエコ・システム、食糧生産、経済開発を推進するような形での抑制をしなければいけないということであります。こうした意味で、IPCCといたしましても、私たち科学者としても、このレベルの定義づけをしていかなければいけないと考えております。

 また、科学的な知識がないからといって政策を後回しにしてはいけないということです。いま気候は変動しております。第二次評価報告書でもこの結論は出ているわけですけれども、このようにはっきりとした証拠はあるわけです。しかし、科学的に知識がないからといって、それを言い訳にして延期してはいけないということ、それから最低のコストで地球規模の利益を上げていかなければいけないということであります。特に、例えば排出権の取引などもキーポイントになっています。

 疑う余地もないことですが、温室ガスが大気圏で濃度を上げているということは人間の活動によるものであります。CO2 、メタン、NOX 、これは化石燃料、石炭、天然ガスあるいはオイルなどの燃焼によっておきてくるものです。特にCO2は人間の、人的による温室ガスの基本的な要件になっているわけです。またCO2が出るだけではありませんで、硫酸系のガスも出てくるということ。このようなSOX は空気を冷やす方向にあります。温室化を相殺するわけです。ヨーロッパ、アジアの一部からも出ているわけですが、特に化石燃料の消費の多いところです。また地球の温度が全体に上がってきております。

 例えば、 1.5度から 6.5度、2100年までに上がるのではないかと考えてます。過去14000年以上上がっています。つまり、この世紀が一番、いままでの中で気候が暖かい時期になっています。つまり、地球は間違いなく暖かくなっているということ。それから海洋の水位 が上がっています。また氷河が次第に融けてきてます。そういった意味で地球環境が変わりつつあります。これは自然現象なのでしょうか、あるいは人間の、人的な影響によるものなのでしょうか。論理的な計算をしていきますと、結論としては、気候が変動していることは自然現象としては説明できないということです。ただの平均地表面 気温だけではありませんで、緯度・経度の温度的変化を見ますと一定してます。ですから、理論から予想できることですが、同時にアエロゾルも、それから温室効果 ガスの排出も上がっているということがいえます。このように人間の影響が明らかに地球環境にあらわれているということです。

 次の重要な点ですが、グローバル・ポリシーがなければ、そしてこのような形で温室効果 ガスの抑制が行われなければ、来世紀はさらに温度が上がっていくだろうということです。人口も多くなっていく、また経済的にも豊かになっていく、技術が変わっていく、それからエネルギー・コストも変わっていきます。そこで、例えばCO2 を見ていきたいと思いますが、これから 100年、どうなるでしょうか。

 CO2の排出量 ですが、2100年には60億トン/年、あるいは 300億トンになっていくのではないかと思います。GNPや人口、その他を考えていくとそのくらいのレベルになります。このように温室ガスの傾向というのは予測されているわけです、2100年までに地球の気温 11.5 から 6.5度F上がっていくだろうと考えられています。100年間で、例えば 6.5度Fも上がるということになりますと、いままでの1万年間の変化よりもさらに大きいものが体験されることになるわけです。

 このように地球の温暖化が起きているということですが、それを下げていくということは非常に時間がかかります。例えば、海の海面 が上がっていく、この変化を止めるためには、あるいはそれを下げていくには数百年かかることになります。

 よいニュースとしては、コスト・イフェクティブな技術やポリシーがたくさんあるということです。これは先進国、途上国、ともに温室化ガスの規制についての努力が行われようとしております。また、世代的、各国間の平等の問題、これも大きなセンシティブな問題です。そういった意味でも戦略を考えていくことが必要ですが、例えば化石燃料への依存ということを考えていきますと、その地域、ローカルな空気の質も影響を受けるわけです。

 次に、コンベンションに対しての大きなチャレンジというのはなんなのでしょうか。まず安定化レベルどのように設定するか。これは科学的なものではなくて政治的な選択になります。コストを下げて、そして環境を保全していく。そうした技術や政策というのはかなり地域、特定化されたものになります。ある地域でベストの調子でも、ほかの地域にはそれが必ずしも最良ではないということがあります。

 それではこの気候変動の問題ですけれども、図1を見ていただければわかるかと思いますが、450ppmで展開していきます。ここで非常に大きな変化が出てくるわけですが、 450あるいは650ppm のレベルで安定化していかなければいけない。そういった意味では、化石燃料というのはこのぐらいのレベルになるのではないでしょうか。これを見ると驚く人がいるんですが、 450、 650、これはだれにとっても非常に大きな数字であるというふうに言う人がいます。ですから、はっきりいえることは、いろいろなグループの人たちがいろいろな考え方を持っているということがいえます。

 IPCCとしては、短期間に補助金を出すが、本来的には補助金はなくしていく方向で考えております。そして新技術を市場に出す。それで基礎を固める。そしてエネルギーの補助金がなくても、新しい技術があれば、それを市場に応用していくことによって誘導していくことができると考えるわけであります。初期にはインセンティブが必要であり、それが非常に有用でありましょう。教育、訓練、これは重要な点であります。この点については後ほどお話したいと思いますが、1つ、疑問として考えなければいけないのは、環境的に非常に大きな影響が出てきた場合には、方向を化石燃料から移していかなければいけない。例えば、来世紀の半ばから終わりぐらいには化石燃料は一切使わないようにしていかなければいけません。そこで研究開発のプログラムですが、政府、民間、両方ありますが、このような技術を開発していく必要があります。そして投資を研究開発に向けていくわけですが、これは民間にあるいは、官民両方にしていかなければいけませんが、この方向を誤ってはいけません。

2. CO2削減は可能か

 全体的な結論ですが、ある程度の温室効果 ガスの減少が可能です。また、それによって資本在庫を早期に使い果たす必要もありません。今後 100年間でなんらかの方策を講じることが必要になります。エネルギー供給やエネルギー需要での投資を考える際には、やはり気候変動が大きな懸念材料となります。当然ながら、技術と方策、両方兼ね合わせて対策を講じることが必要となってきます。

 IPCCは第二次評価報告のあとに、各国政府によって新たな技術報告書を提出するように要請されました。第二次評価報告を、いってみればより使いやすいものにしてほしいというのが要請の内容でした。対象としては、気候変動枠組み条約(FCCC)の付属国でしたが、今後は非付属国も対象にするという内容も盛り込まれました。また、第三次評価報告は第二次を基にしており、短期間で利用できる技術及び方策をより細かく分析しております。短期は現在より2010年まで、中間が2010年から20年まで、そして長期が2050年以降です。2050年はほとんど予測しようもない長期とみなしてよろしいでしょう。

 技術報告書の内容は大体このように構成されていました。まずエネルギー需要、そしてエネルギー供給、農業、林業、固形廃棄物及び排水処理、そして分野を越えた経済手段。この内容によって構成されていました。

 まず市場を基本としたプログラム、つまり、炭素税、エネルギー税を検討しました。外的要因、また補助金の徐々なる削減、また自主的合意、そして規制、研究開発の重要性、また情報提供の重要性についても触れられています。今回、第二次と違いまして、技術的可能性についてより深く言及しております。また経済的可能性、そして市場的可能性についても第二次より第三次のほうが細かく言及しております。

 技術的可能性というのは、実行可能性及びコストは別 にして、その技術のエネルギー効率性などを検討しております。経済的可能性は,次のとおりです。つまり、技術的可能性の中でコスト効率のよい方策はなんであるか。しかし、市場障壁はこの際、検討されていません。コスト効率がよいとはどういうことか。技術報告書では、5年間でコストに対する見返りが返ってくればコスト効率がよいと定義づけています。人によっては、その投資の見返りが10年間という人もいますが、一応5年間となっています。

 そして最後に市場的可能性。つまり、経済的可能性の一部。現在の市場政策の環境下で何が実行できるかということです。この際は現行の市場障壁も検討に入れます。

 表1の研究開発に対する投資の割合をみてみたいと思います。83年から94年までの投資額をみています。単位 は10億ドルです。83年を見ていただきますと、 120億ちょっとから、94年にはかなり下がっています。しかし、私が懸念しているのは、再生可能なエネルギー、また省エネに対する投資の減少です。その一方、原子力に対しての投資はあまり大きな変化が見られないということもあります。化石燃料から再生可能なエネルギーに移る必要がある、いま、ぜひ、投資を活発化させなければなりません。

少々見えにくいところがありますが、全ての人が恩恵を享受できるような状況をどのように生み出すかが問題です。経済的に効率のよい状況を生み出すことによって、大体20%の二酸化炭素排出減が望めます。それと同時に消費者に対するコストは生まれないということがいえます。そのほか、クリーン・コール技術など、また再生可能なエネルギー源を使うことも考えられます。これもまた全ての人に恩恵が生み出されます。

 経済的効率性では、地域的、また地元の外的要因を内部化することが可能となってきます。私が言う経済的に一番いい状況といいますのは、その内部化がまだそれほど進んでいない状況であります。ここで1つ、強調したい点がありますが、研究開発に対する投資は欠かせないものであります。それによって価格、料金が下がることになります。低コスト、そして全ての人に恩恵がもたらされるような状況を生み出すためには全体的な投資の増加と研究開発が必要となってきます。

3. IPCCの今後

 では、IPCCはこれからどこに行くのかというお話をさせていただきたいと思います。

 第二次評価レポートは1995年の12月に批准されております。中には統合レポート、ワーキング・レポートが入っております。総合レポートは、実際は統合ではありませんで、実は色々な事柄、つまり色々なところのワーク・グループから出てきたものが入っているものですけれども、特にFCCCの第二条をみるということが非常に大切だと思いました。

 ワーキング・グループ2、作業部会の2、これは科学的な評価ですが、そこがワーキング・グループ1とは違います。特に生態システム、気候変化、そしてどのような形で適応していくのか。ただし、この適応がちょっと弱いと思っております。

 緩和策も入っております。ワーキング・グループ3、これはマクロ・エコノミック、社会経済的な要因というものをこのワーキング・グループが見ております。

 この第2回レポートの欠点ですが、ここにはまず社会的な、経済的な問題が自然科学な問題と完全に分離していると思います。ワーキング・グループ3の方で科学面 からのアプローチをしておりますが、ここらへんがちょっと弱点だと思っています。そのほかにも1つ、生態科学、これはワーキング・グループ1ですが、その影響との間がどうも分離されてしまっていると思っております。ワーキング・グループ2の問題はセクター別 の問題ですが、十分に横断的でないと思っております。例えば水、農業、バイオマス、こういったものが気候変化による影響があるのか。こういったことを横断的にはみておりません。ですから、統合的なモデルというものがもしあるようでしたら、それを導入したいと思います。

 また、私たちのアプローチがどうも地球単位 すぎる、つまり地域的でないという反省もあります。ですから、こういった気候変化が地域における問題、そういった問題を入れていきたいと思います。アジア、それから北アメリカ、そして南アメリカといった地方的な視点というものを入れていきたいと思っております。そしてまたエネルギー需給関係、そして地域的にこういった新しい技術でありますとか措置が実際導入できるのか。そして様々のワーキング・グループが海面 上昇、地表面、そして林業、こういったものをワーキング・グループの2と3のほうで取り扱っております。

 IPCCとしては色々なエネルギーと開発の関係をみて、どのように経済効率を伸ばしていくのか。特に助成金の問題、補助金の問題、それから私たちのプログラムが現地の環境、それから地域、地球規模の環境にどういうふうに影響を与えるかを考え、相乗効果 、トレードオフとしてこの地域、地球規模の環境にこういったものが与える影響について、これから6ヵ月のうちになんらかの形の戦略を見つけて、ホスト国のニーズに合うようなプログラムを出し、そこから新たな自主プログラムを出そうとしております。


ロバート・ワトソン博士略歴
1973年:ロンドン大学、化学博士号取得、国家航空宇宙局(NASA)の科学部局長兼惑星たる地球のミッション部局(Office of Mission to Planet Earth)の主席科学者 ( Chief Scientist ) 、ホワイトハウス直轄の科学技術政策部局 ( Office of Science and Technology Policy ) の環境問題担当次長を歴任、その後世界銀行に移り、現在に至る。次期IPCC議長に就任の予定。

[IPCC情報へ]     [シンポジウム・セミナー開催一覧へ]

▲先頭へ