2004年2号

国連気候変動枠組条約 ポストCOP9セミナー開催報告 -GISPRI / IGES共催-

セミナー概要

2003年12月1日から12日にかけてイタリア・ミラノで国連気候変動枠組条約第9回締約国会合(COP9)が開催されたのを受けて、2004年1月21日(水)全社協・灘尾ホールにおいて標記セミナ-を開催した。現在、京都議定書は発効していないが、COP9では吸収源CDMに関する定義とルールが最終日の全体会合で採択されるなどの進展を見せ、閣僚級円卓会合では多くの国々が京都議定書の重要性を述べるなど世界が一致した地球温暖化問題に対してへの取り組みの重要性が再認識された。本セミナーでは、実際にCOP9で交渉にあたった政府各省庁の担当者を講師にお招きし、交渉経緯や決定事項のご報告及び会場からの質問にご回答を頂き、地球温暖化問題における国際交渉についての情報を包括的、かつタイムリーに提供し、セミナー参加者の本問題へのさらなる理解促進を実現した。産業界、コンサルタント、研究者、学生など地球温暖化問題に興味を持つ261名もの方々が会場に詰め掛けた。以下に、ご講演内容及び質疑応答内容を報告する。



ご講演者

□  COP9開催結果のご報告
  外務省   気候変動枠組条約室長   福島 秀夫様
  経済産業省   地球環境対策室長   坂本 敏幸様
  環境省   国際対策推進室長   牧谷 邦昭様
  林野庁   海外林業協力室調査官   永目 伊知郎様
□  質疑応答
<コーディネーター>
  財団法人地球産業文化研究所     専務理事     木村 耕太郎
<ご回答者>
  外務省   気候変動枠組条約室長   福島 秀夫様
  経済産業省   地球環境対策室長   坂本 敏幸様
  環境省   国際対策推進室長   牧谷 邦昭様
  林野庁   海外林業協力室調査官   永目 伊知郎様

各ご講演者のご発表要旨

□ 外務省 福島室長
   9月末のモスクワでの世界気候変動会議でプーチン大統領は「批准は国益にそって慎重に判断して決める」と発言し、京都議定書発効問題の決着が先送りとなった。COP9の政策的位置付けに関する調整がローマにて10月、11月に行われた。この会議では、京都議定書発効は大切だが、きっちりと地球温暖化への対策を示していくことと京都議定書の重視・発効に関する政治的メッセージを出すことが大切である、ということで合意した。

 COP9自体は、前向きな雰囲気であり、政府間の交渉とサイドイベントでの活発な動きがあいまって全体的な盛り上がりがあったと感じた。吸収源CDMの細則の決定には日本の立場も反映され、CDMや途上国支援に関するそれなりの前向きな議論があった。

 南北対立は残っているという印象である。先進国が自らの義務を果たしていない、という不信感・不満が途上国にはある。議定書が発効しないということ自体、先進国が自らの責任を果たしていないと映る。そのような中で途上国の義務や責任を議論するのは如何なものか、というイクスキューズを途上国に与えることにもなっている。また、現に先進国の排出削減も進んでいない。EUでも、イギリスとスェーデンしか目標達成の見通しがたっていない。

 閣僚級円卓会合は、最終議長サマリーとしてまとめられ、COP8の時のような「交渉」を避けたため、途上国と先進国の宣言の文言をめぐる争いのようなことはなかった。ただ、フラストレーションは残った。特に、資金援助と技術支援に関しては、途上国には進捗が遅いと映っているようで、LDC(後発途上国)の中には不満を爆発させる国もあった。交渉では、LDC基金・特別気候変動基金等をめぐり最後までまとまらなかった。

 ロシアの批准については、下院選挙、大統領選挙等をひかえているため、国内の政局がおさまってからの判断になるとみられる。ロシアは、経済成長の制約等マイナスの影響や、JIのルールに関する不満等も表明した。

 アメリカは長期的視点での技術革新により、京都とは違う道でリーダーシップをとるとしているのに対し、イギリスは既存の技術も活用すべきであり、また技術の活用は必ずしも京都と相容れないものではないとし、有る意味COP9で目立っていたという印象がある。
□ 経済産業省 坂本室長
   COP9の閣僚級円卓会合は、途上国と先進国の対立の尖鋭化を避け、信頼醸成をはかることがメインであった。多くの国が少しずつ発言する形であったため対話としては不十分な面はあったが、各国の考えていることはわかり相互理解は進んだものと考える。

 技術に関するつっこんだ議論が多く意義深かった。新技術の開発と既存技術の利用・移転は、ともに推進されるべきものであるという点も共通認識が得られた。

 途上国の不満は和らいだわけではない。COP8の時より高まっている。マラケシュでの途上国支援の合意の実施が必ずしも進んでいないことと、先進国自体の排出削減が進んでいないことが背景にある。

 CDMについては、技術移転とキャパシティビルディングが重要である点が改めて認識された。また、日本からもCDMの早期実施を主張し、議長サマリーにも盛り込まれた。

 途上国は何らかの削減義務負担について警戒していた。アメリカは環境保護庁のドブリアンスキー次官がCOP9初日の12月1日付けフィナンシャルタイムズ紙に京都議定書はかつてないほど厳しい拘束であるとの趣旨の記事を載せたが、アメリカの国内動向を意識しての動きともとれる。また、排出削減に関するマケイン・リーバーマン法案が43:55で否決されたが、否決と賛成の票の差が小さいことを重くみる見方もある。

 ロシアは、政府関係者によって言うことが違う。プーチン大統領の経済担当の側近であるイラリオノフ氏は批准しないと明言したが、その他の閣僚・高官等は批准を引き続き検討しているなどイラリオノフ氏と逆のことを言っている。また、JIのルール策定の不足についての指摘や、批准していないのはロシアのみではない、等の発言もロシア関係者からなされた。重要なのは、いつロシアが批准しても大丈夫なように国内対策を着実に進めることである。

 CDM理事会関連では、現在、9つの方法論が認められているが、似たような案件でも、少し内容が違えば毎回新方法論を検討しなおし、ますます案件スペシフィックな形での方法論検討になっているのが現状である。方法論の検討はもっと一般化して、労力の削減と実施のスピードアップをはかる必要である。非附属書I国からの運営機関申請促進(現在19期間が申請、うち日本6、途上国2)の必要性への指摘や、アメリカからCDM理事会に傍聴者が議場に入れるようにすべきとの主張があった。前者については非附属書I国からの応募を促進すること、後者については理事会で継続検討することになった。ベースライン・モニタリング方法論については、岡松委員から方法論の一般化について、方法論の中の要素を取り出して審査・承認し、承認された要素の組み合わせなら別の方法論とはみなさないアプローチが重要ではないかと提案して一定の理解を得て、次回理事会で引き続き提案・検討を継続することとなった。クレジットの発行開始期日は、2001年11月~2005年12月31日までに登録されたプロジェクトはクレジットの発行開始をプロジェクト開始時点に遡ることを認めるという勧告案で合意された。CDM登録簿内の口座の扱いでは、非附属書I国も保有口座はもてるがそこから附属書I国の国別登録簿の口座に移転できるかは、さらに理事会で検討されることになった。

 中東欧でのJIを制限するEU指令案について、京都議定書ではJIが国際的に実施可能なルールになっており、日本は中東欧でのJIの実施も前提に議定書を批准した。しかし、EU指令案でJIの制限が検討されている。つまり、国際ルールがEUのローカルルールで覆されそうになっている。このEU制度のもと、京都議定書に基づきJIが行われると、京都メカニズムとしてEU内割当のAAUがERUに転換してEU域外(投資国:日本など)に流出する。しかし、EU制度下でEU内で割当られたEAUはそのまま域内に残っており、排出削減分として域内で流通可能とある。つまり、1つの排出削減行為で、2つの制度のもと、JIの投資国へ移転するクレジット(ERU)と、EU内で排出削減分として流通するクレジット(EAU)が同時に生じ、いわゆる排出削減のダブルカウントとなってしまう。それを防ぐため、EU指令で域内JIの禁止を盛り込もうとするものである。しかし、中東欧諸国では日本等からJIを通じて投資を呼び込みたい意向があり、このEU指令案はその障害となる。そこで、小池環境大臣からも、このJI制限についての問題意識を伝達している。
□ 環境省 牧谷室長
   2001年のCOP7でのマラケシュ合意により京都メカニズムの実施ルールを含む多くの事項が合意された。2002年日本も議定書を批准し、地球温暖化対策推進大綱等に基づき取り組みを強化した。EUでは、2005年からの域内排出権取引への準備を進めている。アメリカも、ブッシュ気候変動政策のもと、中長期の技術開発による対策を軸に、炭素隔離や燃料電池(水素社会)等の研究を進めている。途上国においても、大排出国である中国・インドにおいても対策が始まりつつある。 

 COP8では、先進国と途上国が激しく対立した。先進国は次期約束期間・将来の枠組に関する交渉の開始を主張した。一方で、途上国は、先進国の約束した支援が不十分であること、京都議定書発効していないこと、先進国自身の排出削減等の取り組みが不十分であることを主張した。そして、対立より対話・信頼醸成を重視し、閣僚級円卓会合の結果についてはCOP8のような政治宣言ではなく議長サマリーをまとめる形となった。日本からも閣僚級円卓会合に積極的に参加した。また小池環境大臣自身サイドイベントで日本の取り組みや技術に関してアピールする場面もあった。

 閣僚級円卓会合については、3つのセッションがあった。セッション1のテーマは、気候変化、適応、緩和、持続的な開発についてであり、小池環境大臣が共同議長を務めた。中国はじめ途上国からは、気候変動の影響が既に実際に現れており、現実の問題として捉えて欲しい、議論より行動が必要である、といった主張がなされた。これに関し、EUからも適応措置の重要性について言及があった。ロシアも、緩和努力が気候変動の削減に効果があるのか?科学的にみて不確実であるから、適応措置が重要であるとした。セッション2のテーマは、技術について(技術利用と技術開発、技術移転を含む)であった。アメリカのドブリアンスキー国務次官らが共同議長を務めた。日本からは早期批准を訴えるとともに、全ての国が参加・適用できる共通のルール作りが重要なことを主張した。アメリカは炭素隔離や水素社会等技術を軸とした自主的取り組みを紹介しその重要性を主張した。EUは技術開発は京都議定書によっても促進されていると主張し、特に再生可能エネルギーに力点をおいた。ドイツは新技術のみならず既存技術の活用の重要性を主張した。途上国は、各途上国ごとのニーズに応じた技術移転を求めた。セッション3のテーマは、評価(UNFCCC等に定められた目的や約束がどの程度果たされているか)であった。ドイツ・メキシコが共同議長。ロシアは、自国の経済的利益が重要でありJIの早期実施や、実施手続きの簡素化が必要とした。

 IPCC第三次報告書(TAR)の扱いについては、UNFCCCの交渉の場でどう活用するのかが話し合われ、SB20から2つの新たな議題で検討をスタートすることになった。テーマは「気候変動の影響、脆弱性、及ぶ適応措置の科学的、技術的、社会的な側面について」と、「緩和措置の科学的・技術的・社会経済的側面について」である。ただ、漠然としたテーマでもあり、どう検討を進めるのかよく見えない点はある。そこで、ステップバイステップという形で、SB20では各国のサブセッションやワークショップなどから始めて徐々に検討の積上げを行っていくことになっている。

 国別報告書の作成は附属書I国、非附属書I国共通の義務であるが、特に非附属書I国にとっては、排出削減活動への基礎作りという意味で重要である。自国の排出状況を正確、定期的、かつ迅速に把握する意味でインベントリは排出削減対策の第1歩といえるものであり、対策を明確に示すことは、政策を進める上で大切なことである。非附属書I国にとっての国別報告書作成に関しては2つの論点がある。①作成のための資金、技術援助に関し、GEFに追加するための指針は?②提出頻度は?である。非附属書I国では、第1次報告書を出している国が110カ国、未提出43カ国であるが、中国のように大量に排出しGEFからも資金援助を受けている国であっても提出していないところもある。第2次報告書にいたっては、5カ国が準備中というレベルである。一方附属書I国では第3次までの報告書がでそろい、第4次について検討しているところである。
□ 林野庁 永目調査官
   吸収源CDMの運用ルール等に関する決定は、2年ごしで交渉されていて、今回決まらなければ、今後のCOPでも決まらないだろうということで、今回各国がまとめる方向で動いた。小規模CDMのスキームは最後発途上国や島嶼国でも実施可能である。対象となるのは、新規植林と再植林。再植林の基準年は89年末に決定した。途上国に関しては99年末とすべきとの議論もあったが、UNFCCC等の基準と異なることになりダブルスタンダードになりかねない、また今後の約束期間において再植林の基準年が変更可能であるとのイメージを与え、守るべき森林の伐採が逆に進んでしまう悪いインセンティブを与える、といった主張もあって、89年末に決着した。

 事業活動の純吸収量では、事業に起因する排出量増加は控除して考えることになる。一方、ベースラインの純吸収量の算定では排出控除は行わない。

 非永続性と長期性の観点から2つのクレジットが用いられることになった。2つのクレジットとは短期的な期限付きクレジット(tCER)と、長期的な期限付きクレジット(lCER)である。短期のクレジットであるtCERは発行された次の約束期間末で全量失効するため、次の約束期間では他のクレジット(AAU、ERU、CER、RMU、tCER)で補填が必要。長期のクレジットであるlCERは炭素蓄積が維持されていれば約束期間末で失効することはなく、クレジット発生可能期間末(30年か20年+2回更新の最長60年)まで有効。期間末で失効。炭素蓄積が増加すれば増加分が発行できるが、減少していればその分失効してしまうので、クレジットで補填しなければならない。また、5年毎の認証報告書が提出されない場合も失効してしまうので補填しなければならない。補填につかえるのはAAU、ERU、CER、RMUと、同一事業からのlCER。クレジット発生可能期間内での伐採や更新も、新規植林や再植林としての対象となりうるが、途中でベースラインを更新するオプションを選んだ場合は、更新されるベースラインが20年後に植林のシナリオとなることがありえる。その場合は、21年目からの純人為的吸収量が発生しなくなる。すなわち事業発生当初はCDMでないと植林事業がなりたたなかったが、20年後、最初に想定されていたバリア(障害)、例えば技術面、資金面、制度面などが解消されていれば、ベースラインは植林となってしまい、ネットの吸収量が0となってしまうということである。

 標準伐期齢に即した伐採、植林を行う必要がある点に注意が必要である。例えば、短伐期のユーカリ(標準伐期齢8年)を20年伐採せずにおいておいた場合、8年目以降は吸収量は増えないのでforest managementにすぎず、クレジットは発生しない。

 tCERとlCERの違いは、どちらも、炭素蓄積が継続しても一定期間で失効するので根本的な違いはないが、tCERは担保すべき炭素蓄積量の増減に関わらず、次期約束期間末ですべて失効しそこで補填しなければならないのに対し、lCERは約束期間ごとの失効はないが炭素蓄積の増減に応じ(事業者の管理状態に応じ)て減少分は失効してしまうため、その都度補填する必要があるという、失効・補填の形態・時期が異なるものである。

 追加性はベースライン純吸収量より事業活動による純吸収量が増加していること。ベースライン方法論は、吸収源事業として、事業開始時点における最も有望な土地利用による炭素蓄積の変化とされる。よって、従来の産業植林造林適地ではベースライン吸収量と事業活動による純吸収量が同一になりかねず、追加性がないことになってしまう。

 小規模吸収源CDMについては、認めるかどうかの激しい議論の末認められた。吸収量は8千CO2トン/年未満となった。排出減では小規模CDMは15千CO2トン以上だが、植林換算では1000ヘクタール以上となり、規模が大きくなりすぎるため、8千トンとなった。

 最後に、吸収源事業は、排出源対策の補完的位置付けである。そこで得られるクレジットは将来必ずパーマネントなクレジット(AAU、ERU、CER、RMU)への置き換えが必要となる点に注意が必要である。すなわち、現在の1単位あたりの排出削減コストと、20年後、30年後、60年後の1単位あたりの排出削減コストを比べて、現在は吸収源活動によるクレジットに頼らざるを得ない場合や、頼ることが経済的に妥当性がある場合には有効なツールである。また、小規模吸収源CDMが認められたことにより、より世界の広い範囲でCDMが可能になったわけで、国際社会全体の参画を促すものといえる。

パネルディスカッション
小池環境大臣とロシアの交渉は?
  ⇒ 外務省 福島室長
   ベトリツキー水理気象環境モニタリング庁長官と小池大臣との会談では、小池大臣からロシアの速やかな批准を求めたのに対し、ロシア側からは基本的に9月の世界気候変動会議の際と同様の趣旨の立場が示された。ロシア側からは、京都議定書が科学的に意義があるとは思っていない。また、経済的実利の点で、JIに関し環境整備が必要であるとの意見もあった。
ロシアから日本、EUへの見返り要求(経済的関心への対応等に関し)は?
  ⇒ 外務省 福島室長
   ロシアに対しJIでアメをぶらさげ大きな譲歩をすることは考えていない。EUとしても、ロシアはビジネスの相手としてまだ不安な面があるとみている。ロシア国内でのJI事業の受け皿体制にも不備がありリスクを含んでいるといえる。
事業申請がCDM理事会で追加性等の点からなかなか通らないが、そこまで手間をかける以前にまず構想段階でいけそうかどうか判断する仕組みはないのか?
  ⇒ 経済産業省 坂本室長
   UNFCCCレベルではそういう機能や組織はないが、経済産業省では京都メカニズムに関するヘルプデスクを設けている。その窓口に相談して欲しい。最新の交渉の内容などをもとに、事業評価のお手伝いが出来るかもしれない。
2005年12月31日以降に登録されたプロジェクトのクレジットの発行開始は最短でも第1約束期間がはじまってからになるのか?
  ⇒ 経済産業省 坂本室長
   ケースとして、例えば2006年12月に登録が行われたプロジェクトのクレジットの発行は、2008年の第1約束期間がはじまってからかというとそうではなく、登録された時点(2006年12月)からクレジットの発行は可能である。
EUのリンク指令に関し、JIのダブルカウントに関して詳細な説明が欲しい。
また、その件についてEUと接触した際、何らかのリアクションはあったのか?
  ⇒ 経済産業省 坂本室長
   例えば、ハンガリーの製鉄所でJIが行われた時を考えてみる。その製鉄所は、ハンガリー政府がもっているAAUの一部をクレジットとして割り当てられている。そこに、例えば日本によるJIが行われ排出削減によりその製鉄所のAAUに余剰枠が生じた場合、その製鉄所はEUの排出量取引市場でその余剰枠を売ることができる。一方、JI事業によりハンガリー政府のもっているAAUはERUに転じてJI投資国の日本に移転する。

 これを防ぐには、製鉄所に割り当てたAAUを一旦政府に返させ、それを日本にERUに転換して渡せばいいのだが、EUではそういう制度設計になっていない。そこで、削減のダブルカウントが生じてしまうのである。

 EU側はこの問題に対し、JIは難しいかもしれないが、日本が中東欧に環境投資を行ってクレジットを得ることはできるとする。それは、JIという形ではなく、上の例のような排出削減事業により、EU排出権取引制度で各施設に割り当てられたEAU(EUのAAU)の削減枠が獲得できるので、それを換金(EU市場で売って)した金で京都メカニズム下のクレジットを買えばよいとする。

 しかし、JIにより国際的に通用するクレジットが獲得できるのが国際合意であり、EU指令によるJIの制限はそのメリットを阻害するため、EU委員会に働きかけを行っている。
途上国支援について、特に基金関係は?
  ⇒ 外務省 福島室長
   日本として、このCOPで検討されたLDC(後発途上国基金)、SCC(特別気候変動基金)について拠出の見通しは現在のところない。理由は、プライオリティとして途上国の関心からみても適応対策への支援のほうが高いことである。
技術について、特にアメリカの動き・各種フォーラムの設置等の具体的内容は?
  ⇒ 環境省 牧谷室長
   炭素隔離のリーダーシップフォーラムは、アメリカエネルギー省が中心に企画し、日本など多くの先進国が参加している。現時点での内容はまだあまりフィックスしていないが、世界レベルでの協力が必要なので、集まって話し合おうという感じである。地球観測(温暖化モニタリング)関連は、アメリカがリーダーだが、日本としても積極的に参加をしたいと考えており、実行計画を策定するキックオフ会合は今年日本で開催予定となっている。
非永続性に関して、クレジットの失効と補填は?
  ⇒ 林野庁 永目調査官
   tCERは1回ごとに棚卸して確実にゼロから再発行する。よって、すべてのクレジットが次の約束期間末で失効する。lCERは、5年毎のモニタリングの結果次第で減っている分は補填が必要となる。しかし、保たれている分はクレジット発生可能期間末まで有効、期間末で失効する。補填する場合も、同じ事業でのlCERも可能である。
クレジットは誰が補填するのか?
  ⇒ 林野庁 永目調査官
   色々なケースを考えると難しくなるが、COP決定のL27文書に基づけば、最終的に目標達成に用いるのは国なので、国が補填の義務があるであろう。なお、事業者から国への移転の仕方は今後議論が必要である。補填義務も含めて今後検討していくべき課題である。
吸収量の測定について除外項目としてあがっていた炭素プールについては?
  ⇒ 林野庁 永目調査官
   土壌有機物はトレンドだけ増えていることを示せば絶対値を計測しなくてもいい。要は土壌有機物が土壌の中で増えていることが明らかだと証明できれば、絶対値の計測はしなくてもいい。
厳しいルールが決まったがこれに取組むインセンティブや経済的意義は?
  ⇒ 林野庁 永目調査官
   これまで通りの産業植林をこれまで通りの産業植林適地で行うことに追加性はない、ということがはきっきりした。CDMとして認められるためには、何らかのバリア(投資、技術、制度など)を超えて投資されることが追加性要件として必要である。ケースごとに分析して、クレジット量などを総合的に判断していけば事業者にとって必ず魅力的な案件はみつかるものと思う。
COP9の交渉とは直接関係ないが、国内吸収源対策(3.9%)の施策内容は?
  ⇒ 林野庁 永目調査官
   森林整備の対象地を増やして3.9%に近付ける努力を行っている。現行の予算措置では2.6%程度に留まるおそれがあり、追加措置を要求しているところである。
CDM・JIの支援策について現在検討中のもっと大きなものはないのか?
  ⇒ 経済産業省 坂本室長
   大綱の見直しを今年行う中で、環境省や他省庁と共同して新たな施策が必要かどうかも含め検討を進める。京メカの活用施策についても幅広く検討していきたい。
仮に京都議定書が発効しない時、CERに何らかのインセンティブを与えられないのか?
  ⇒ 経済産業省 坂本室長
   あくまで仮定の話として回答する。COP9のサイドイベントでは、EU独自のCDMの活用枠組をEUの排出権取引制度に入れ込む提案もあったが、EU官僚は若干はぐらかし気味であった。少なくとも、CDMのコンセプトは途上国の持続可能な発展と先進国の排出削減が可能な素晴らしいものであり、仮に京都議定書が発効しなくても温暖化の対策やCDMのコンセプトは引き続き生きていくものであると個人的に思う。
  ⇒ 環境省 牧谷室長
   発効を前提に施策を検討しており、発効しない場合は想定していない。ロシアとしても経済的利益を得たいと言っているわけで、その機会を失うようなことをするのか疑問である。利益を最大化するために交渉を引き延ばすことはありうる。
  ⇒ 外務省 福島室長
   牧谷室長の指摘の通り、批准しないということは考えにくい。
また、次の交渉の枠組の中に京都議定書の主要な考え方が全く無くなるとは思えない。特に京都メカニズムのような柔軟性のある仕組みや、約束を伴うという枠組は引き継がれるのではないか、と個人的に考える。

会場風景
 セミナー会場  質疑応答
(矢尾板 泰久)

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