1998年2号

Global Scenario Group と当研究所 2050年のサステイナビリティ研究委員会との討論会


昨年京都で行われた、気候変動枠組条約第三回締約国会議(COP3)の期間中に、ストックホルム国立環境研究所を設立母胎とし、先進国及び途上国の持続的発展の専門家をその構成員とした、Global Scenario Groupが来日し、当研究所にて3日間のミイーテイングを行った。その最終日に当研究所の2050年のサステイナビリティ研究委員会、国連大学と、今後の持続的発展の研究のあり方について、活発な意見交換を行ったので、以下にその概要を紹介する。

  • 日時:1997年12月13日(土)

  • 場所:(財)地球産業文化研究所 会議室

[各グループのこれまでの研究概要紹介]

(1) GSGの研究概要(P. Raskin博士):

 各国・各地域の調査・分析を基に将来シナリオを描き、政策および対策の優先順位 決定につなげることを目的としている。第一のシナリオは従来通りの開発が続く「伝統的思想型」である。第二は対立が生じ世界の破局、または強権世界となる「過激思考型世界」である。第三は異なった価値観で歩み始める「偉大なる歩み型」である。これにより懸念のあるトレンド、そして貧困や不平等といった問題のあるパターンを洗い出している。例えば飢餓問題は、経済発展があっても不平等がなくならない限り存在する。ここでの制約事項は不平等である。目標は何か、その意味するもの、優先されるべき政策は何かを論じ将来への軌跡をより良い方向に導いて、偉大なる歩み型の世界へ向かうことが必要である。

(2) 2050年のサステイナビリティ研究委員会の研究概要
  (森教授):

 作業部会1では、エネルギー・環境などの長期的評価を行い、政策や技術オプションを評価した。作業部会2では環境問題を安全保障の観点からも考察しようというものである。各作業部会の最終報告は完成しており、特に作業部会1では、英語版も近く発刊の予定である。作業部会1,2を統合し、行動指針提言に結びつける最終報告もまとめる予定である。委員会の主な結論は以下の4点である。 1) 資源の供給量と将来需要を合致させることは可能。 2) 資源や財政面 での制約で、エネルギーや食料生産部門の余剰能力は減少する。 3) 持続可能性については、物理的能力の制約より、分配問題の方が先に問題になる可能性がある。 4) 持続可能な進路を見つけ得るとしても、その脆弱性を認識する必要がある。

(3) 米国の2050年プロジェクトの研究概要
  (A. Hammond博士):

 WRIの2050年プロジェクトでは、異なった文化での持続可能性のビジョンを探った。手法にはハイパーフォーミュラなどの新しい手法を使った。研究結果 はGSGや日本の2050年委員会に提供しており、またその概要を近く「Which World?」という題で出版する予定である。シナリオとしては市場本位世界、要塞化世界、改革世界の3つについて、GSGと同じ地域区分を使い、各地域の重要要素と政策優先度を研究し、それを統合してより広い読者向けにしたものである。

(4) チャイナプロジェクトの研究概要(羅教授):

 チャイナプロジェクトでは中国国内の7つの機関と協力して、政策や経済成長、分野別 の将来を推測している。CGモデルでは、2010年および2030年まで中国のGNPが、8~10%の伸びで推移するなら、土地利用における劣化、生態系への影響、景観の変化などが懸念されるとしている。また中国のエネルギー需要では、都市化の影響が大きい。この25年で300万人もが都市へ流入しており、このトレンドは不可逆的なものと考える。一人当たりの面 積は0.29ヘクターになっており、農業生産は1ヘクター当たり4トンと、後退している。食糧供給能力が問題となってこよう。エネルギー供給は安価な石炭が主流である。アジアの環境という面 では、産業の域外移転、グローバリゼーションが進むとみている。開放化により、局地的な環境問題紛争が起きてくる可能性がある。たとえば四川省の硫黄酸化物排出の問題などである。経済成長とエネルギー供給は同時進行の問題である。都市化進行とも合わせ、持続可能性の問題の研究を続け、それをインドや他の地域にまでも拡げた、各国ベースでの研究から、地球規模の持続可能性を探究していきたい。

以下自由討論内容:

[持続的発展と文化の多様性]

(茅教授)東南アジアでは、下手にエアコンを入れるよりも、従来型の生活の方が気候にあっていることもありうる。文化の違いがエネルギーの利用にどういった影響をおよぼすのかの研究も必要ではないか。

(Dr. Sastrapradha)インドネシアは500もの部族、文化が全国的に標準文化を指向するなど文化面 での変化が進んでいる。文化の多様性という点では、ユネスコでも研究課題となっており、文化や環境系の多様性の後退が国際社会でもみられてきている。

(Dr. Hammond)文化的違いは持続可能性に影響をおよぼす。

(羅教授中国では個人所有権の問題がある。現在輸入も自動車保有も前年をいつも上回る率で推移している。

(Dr. Gallopin)GSGでは発展の軌跡で大きな転換、あるいは破綻が起きるかどうかに着目している。たとえば、1972年頃のラテンアメリカのように、大きな社会的政治的変動があったりする場合、その背後には長期的な力が働いているものである。文化は長期的問題の一つである。

(森教授)国際社会の安全保障を保つ国際的なスキームが必要ではないか。各地域での持続可能性や多様性を確保する新しい国際的システムについて、どういった@2L_が良いのか。その手法はとなるとまだその答えは出ていないが。

[部門横断的な研究の必要性]

(Dr. Rahman)労働のグローバリゼーションは、他の分野に比べて遅れている。1060年代から70年代半ばまでは経済のグローバリゼーションが、環境のグローバリゼーションへと発展してきたが、社会的な面 は軽視されており、今後は社会的なひずみがおきると思う。社会問題、貧困や人口問題をどのように統合して解決していくのか。

(Dr. Raskin)政治・社会・経済の各要素を、多面 的にとらえるには、よりアカデミックな深さ、組織化された観点、全体的な変化を広範囲に統合できる能力が要求される。持続可能な発展では、それを統合できるような人材を養成する必要がある。例えばエネルギー利用のパターンは所得に影響されるため、エネルギー政策においては、所得配分の平等性が問題である。この面 でも部門横断的な考え方をとる必要があろう。

[文化のグローバリゼーション]

(Dr. Okoth-Ogendo)アフリカの各国では異なる文化の価値観が、政治的な価値観・世界観の違いとなり、そのグローバリゼーションは遅くまた困難。(清木専務理事)文化的な独立性はグローバル化が進んでも残っていくのではないか。

(Dr. Gallopin)インターネットは文化的同一性、価値観の収束を生む。新しいグローバリゼーションの時代を迎えているのでは?

(Dr. Raskin)グローバルな単一文化がでてくるとは思わない。17世紀のイギリスにおいて市場システムが構築された時には、社会機構の根本的変化をもたらしたが、その一方で文化は保持されてきた。

(羅教授)都市化は大量消費をもたらし、文化のグローバル化を進める。

(森教授)グローバルな文化と地方文化の共存があろう。社会的・経済的な絡み合いは進んでも文化は残るのではないか。伝統的なライフスタイルには変化があるかもしれない。文化の持続可能性は地球社会を考える上で重要である。

[まとめ]

(茅教授)第一に、持続可能性の分析や研究においては、新しいアプローチの方法が必要である。物理的な側面 だけでなく、社会的、政治的、文化的な側面についても取組む必要がある。第二はグローバリゼーションについてである。文化は多様で大きな違いのあるものだ。グローバリゼーションのトレンドの中でも、文化的違いは大きく、持続可能性の研究においてもそういった傾向を考慮に入れる必要がある。また基本的な持続可能性において、たとえば中国が米国並の消費になると世界は崩壊してしまいかねない。その一方で中国には発展を望む権利がある。このことから、物理的な状況だけでなく、社会的政治的情勢への配慮も必要だろう。

出席者:(敬称略) Global Scenario Group
Gilberto Gallopin (Stockholm Environment Institute (SEI))Pablo Gutman (Argentina's National Council of Scientific Research)Allen Hammond(World Resources Institute (WRI) )H.W.O. Okoth-Ogendo (University of Nairobi)A.Atiq Rahman(Bangladesh Center for Advanced Studies)Paul Raskin (SEI-Boston)Setijati D.Sastrapradja (Indonesian Institute of Sciences)Rob Swart (National Institute of Public Health and the Environment(THE NETHERLANDS))Eric Kemp-Benedict (SEI-Boston)

2050年のサステイナビリティ研究委員会:
茅 陽一(慶応大学教授)、鈴木 佑司(法政大学教授)、森 俊介(東京理科大学教授)、渡辺 道雄((財)国際開発センター)

国連大学:羅 福全(高等研究所副所長)

日本財団:石井 靖乃(国際部 国際企画係長)、安楽恵里子(国際部 国際協力課)

(財)地球産業文化研究所:清木 克男(専務理事(上記GSGのメンバーでもある))、佐々木 修一(理事)、寺田隆

 

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