1998年8号

超大型合併における 米欧企業のグローバル戦略思考

超大型合併のアメリカ秩序

 アメリカのM&Aブームはとどまるところを知らず、今年六月末には9,103億ドルとなり、史上最高だった97年一年間の実績の水準に到達。これが推進力となって欧州、アジアのM&Aの大波を呼び、六月末まで1兆3,000億ドルと97年一年間の1兆7,000億ドルに迫っている。トラベラーズとシティコープ(720億ドル)、SBCコミュニケーションズとアメリテック(620億ドル)、ネーションズバンクとバンアメリカの各合併(600億ドル)、ベル・アトランティックのGTE買収(520億ドル)、ダイムラー・ベンツとクライスラーの合併(390億ドル)、AT&TのTCI買収(370億ドル)といった超大型合併は、21世紀にグローバル企業として生き残るための回生戦略である。

 「21世紀もアメリカの時代」という意識がワシントンやニューヨーク、ボストン、シリコン・バレーで強まり、米国外交専門誌ではポスト冷戦世界における米国の世界秩序に関する議論が白熱している。

 巨大合併にはマネーゲームの側面もあるが21世紀に向けての、経営者たちの決断・先見・リーダーシップが読み取れる。合併によるグローバル・スケールの大企業の転身。そして、米独・米英・英独間の国境を越える合併と大提携が見られる(ダイムラーとクライスラー、AT&TとBT、英BAeとDASAおよび英独証券取引所の一体化)。特に、AT&Tではアームストロング新会長体制下での華麗なる転身劇が、大胆発想の買収と戦略提携によって演出されている。

 昨年の春に、ロバート・アレン前会長最後の大仕事として、米国南部と西部に勢力圏を持つ地域電信会社のSBCコミュニケーションズとの合併(500億ドル以上)が企てられた。旧AT&Tの復活につながるとの批判から連邦通 信委員会(FCC)や公取委が反対して、巨大テレコム同士の合併は出現しなかった。 刮目すべきは、強腕経営者を得て、M&A&A(買収・合併・提携)を精力的に展開、世界をアッとおどろかせたAT&Tのように、「たいくつ企業」と呼ばれるマンモス企業の若返り新興ワールドコムの超大型買収である。

世界を二度驚かせたAT&T

 行き詰まった通信巨人=AT&T回生の切り札として、97年秋にマイケル・アームストロング氏が、会長兼経営最高責任者に赴任した。欧州IBM、GM-ヒューズの経営建て直しの実績と通 信事業になじみもしがらみもないという「強さ」を発揮して、大胆にAT&Tの新戦略展開を決断。リストラと同時に大合併、大提携へ進み始めた。

 世界に衝撃を与えたのは、米国第2のCATV会社で、世界最大の番組制作会社のリバティー・メディアを子会社に持つ、テレコミュニケーションズ(TCI)を買収したことで買収金額は、370億ドル(株式交換)で合意。これにTCIの借入金110億ドルの肩代わりもはたし、完全に吸収するというものだが、買収の主要目標は、インターネットの強化である。CATV会社=TCIそのものよりも、そのネットワークをインターネット通 信に活用し、97年11月にMCIコミュニケーションズを買収して、計算上では世界のインターネット幹線の70%を制することになるワールドコム(新合併会社はMCIワールドコム、7月にFCCが認可)に対抗し、情報ハイウェーの中軸企業になることである。

 情報ハイウェー(NII、GII)とは、今日では、ビジネス用のインターネットと同義語になっている。テレコム会社として同業者を買収するのでなくインターネットをテーマに戦略合併を急速展開していこうというものである。TCIのCATV網は、AT&Tのローカル通 信進出にネットワークとして活用すると同時に高速インターネットによるビジネス用データ・サービス網としても活用される。

 買収アドバイザーは、ゴールドマン・サックスとCSファースト・ボストンで、長年、AT&Tの影の如き存在だったモルガン金融機関のモルガン・スタンレーではなかった。ウォール街ではモルガン金融機関の影響力後退、ロックフェラー金融勢力台頭がウワサされている。NYとロンドンではビジネス用インターネットに主眼を置いたこの合併は「あらたなテレコム時代の到来」と絶賛され、米連邦公取委も、買収認可を示唆している。

 その一カ月後に、AT&Tはまたもや世界に衝撃を与えることになった。往年のライバルたるBTとの「チャンピオン連合」の形成である。BTは、AT&Tより一歩早く、新世代の多国籍企業・金融機関向け国際通 信コンソーシャムの「コンサート」を発足させ(93年)AT&Tはその後を追って、KDDや欧州小国通 信連合体=ユニソースをパートナーに「ワールドパートナーズ」を設立、運営している。AT&TはそのBTと国際通 信部門を統合し最高のメガメディアとなり、アングロサクソンの通信・メディア世界秩序構築にとりかかる。

 BTも、「コンサート」のパートナーであったMCIをワールドコムに買収されて、新たな提携者が必要であり、AT&Tとの提携で世界最大の市場たる米国への進出が実現する。かくして、史上最大のM&Aブームは、米国テレコム資本を国際メガメディアへ昇華し、米英通 信チャンピオン企業連合の21世紀グローバル戦略を調える。金融・自動車・医薬・医療でも同じ体制が創出されようとしている。米英国際石油資本は既に共同の世界体制を確立している。

 注目すべきことは、米国内の超巨大合併と提携は、グローバル・リーチ戦略(米・欧・日)を狙っており、「世界第二の市場」日本攻略の秘策を抱いていることだ。日本企業は“カヤの外”と目を覆い内向きになるのでなく、自信を持って戦略対応に討って出る必要に迫られている。

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