2000年3号

出張報告 ドイツ・国際エネルギーフォーラム (E-world of energy)

  欧州、主としてドイツのエネルギー関連産業、政府、研究調査機関の代表らが欧州電力市場の自由化、石炭を中心とした従来型化石燃料を利用した省エネ技術、太陽光・風力発電等の再生可能エネルギーなどについての意見交換を行う国際エネルギーフォーラム(E-world of Energy)が、ドイツ・ノルトラインヴェストファーレン州(Nordrhein-Westfalen)およびエッセン市(Essen)の主催により2月8日~9日にエッセン市で開催された。全体会議および分科会に参加したので、以下の通 り報告する。


1.世界のエネルギーの状況
    (IEA長期協力・政策分析部長 Mr. O. Appert)

 温室効果ガス削減に向けた新しい政策が打ち出されない限り、現在の経済成長率(年3.1%)が続くと、世界のエネルギー需要は1995年~2020年の間に65%増加し、CO2は70%増加する。エネルギー需要増加の内2/3は、中国とその他開発途上国によって占められると予測される。

 今後、CO2排出量削減のため、京都議定書の約束を履行する新しい政策を立案し、それらはまた、経済、社会、政治面 での制約を十分に考慮しつつ後悔のない(no-regret)政策でなければならない。

2.欧州及びドイツのエネルギーの状況
    (IEA、独RWE電力会長 Dr. D. Kuhnt)

 OECD加盟欧州諸国の一次エネルギー需要は、1995年~2020年の間に年率1.1%増加すると予測される。また、電力は最終エネルギー消費の中で最も急速に増加しているエネルギーの種類である。発電電力量 は、1995年~2020年の間に年率2.1%増加すると見込まれる。電源構成を見ると、石炭および原子力合計で現在の60%が2020年には34%へ減少し、一方天然ガスがその経済性と環境面 での利点から現在の10%から45%へと大幅に増加する。

 EUにおける電力・ガス分野での効率性を、コスト削減と消費者への販売価格引き下げを通 じて改善させるための規制緩和措置が導入された。消費者がエネルギー供給者を選択できることが、早急なそして効果 的な改革を実現する上でもっとも重要な方法であり、この方法は、既にドイツ他一部の国で実施に移されている。

 1998年4月のドイツ改正エネルギー法によって、ドイツのすべての消費者は電力供給 会社を自由に選択できるようになり、産業用および家庭用電力料金の値下げが実現した。さらに、ドイツ国内にある900の地域電力供給者の合併も加速している。

 電力はもはや「商品」となり、価格が現時点での唯一の決定的かつ競争的要素である。電力供給能力過剰(欧州で40,000MW、ドイツで10,000MWの発電設備能力)の環境下で、価格競争が益々厳しくなることから、コスト競争力強化と合理化推進のため、中期的には欧州の電力市場は、欧州全域で事業を行う少数の巨大電力会社によって支配される。

 また、一つの会社で高品質の電力、ガス、水道およびエネルギー関連商品を競争力ある価格で提供(one-stop shopping)することが求められる。今後、価格競争力、国際的なプレゼンス、革新的な技術保有等の有無が将来の電力会社の存在を決定する。

3.ドイツ原子力政策の転換(IEA)

 1998年に発足した新政権は、原子力発電所の新規建設凍結と19カ所の既存原発の運転停止・閉鎖を決定したが、時期および閉鎖に伴うコスト等の条件は合意に至らず。現在、原子力がおよそ3割の発電電力量 を占める中、この原子力政策の転換は、将来の電力需給バランス、電力料金、電源構成および京都議定書の約束の達成(1990年比で2010年に温室効果 ガス排出量を25%削減)について、不確実性を与えることとなった。

4.電源構成における石炭の重要性
    (独RAG石炭会社会長 Dr.J.Stadelhofer)

 全世界の電源構成に占める石炭比率は平均で約40%。米国とドイツは共に50%を超え、開発途上国のインドおよび中国は70%~80%という高い比率である。先進国の電力市場の自由化は世界中の石炭価格に影響を与えているが、主要な世界の石炭生産会社は生産性向上に努力することで石炭をより安価に生産することが可能となる。これによって、石炭は発電用エネルギー源として引き続き重要な位 置を占める。

 今後数10年間は、エネルギー消費は開発途上国および新興工業経済地域で増大し、その結果 、世界のCO2排出量に占めるこれらの国々の比率も増加する。今後、熱効率を向上させた石炭火力発電技術の導入により競争力のある価格で発電し、また、CO2排出量 も実質的に削減することができる。これらの途上国への技術移転を推進する上で、京都議定書による柔軟性措置(クリーン開発メカニズム等)を活用した、環境保全に配慮した石炭利用(クリーンコールテクノロジー)等を提案することが可能となる。

5.再生可能エネルギー利用
     (独産業連盟BDIエネルギー政策部長Dr. B. Gellner、
                 独シェル社取締役 Dr. F. Vahrenholt)

 現在、ドイツでの太陽光発電量 は全発電量の0.006%に過ぎない。EUは2010年までに再生可能エネルギーのシェアを2倍にする計画であるが、太陽光、風力、バイオマスを利用した発電コストの削減によって、2020年以降にようやく価格競争力が生じる。一般 的に先進国においては、従来型エネルギー技術から新規エネルギー技術へ代替されるまでには、およそ30年間かかる。

6.まとめ

 西暦2050年頃までは、原子力も含めた既存エネルギーを利用する時代が続く(世界エネルギー評議会独国内委員長Dr. G. Ott)と予測されている。電力・ガスの規制緩和により、石炭を含めた従来型エネルギー源を活用した電力、その他エネルギーの供給価格が抑えられ、あるいは引き下げられるため、その節約コスト分を産業界は省エネ技術導入に振り向けることで、エネルギー使用量 のさらなる抑制(=CO2排出量抑制)に取り組むことが可能となろう。

(伊藤 裕之)

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