2002年5号

WSSD合意内容のCOP交渉へ与えるインパクト

 9月4日午後、本会議総会は実施計画と政治宣言を採択、92年の地球サミットで決めたアジェンダ21の実行に向けた行動指針を明確にし閉会した。グローバル化による経済発展で生じた新たな社会問題に環境保全の視点が入り、日本、米国、欧州および途上国は様々な主張を展開し、対立軸も主要論点毎に変わる熾烈な交渉であった。現時点で、WSSDの成功判断は困難であるが、合意事項の達成結果如何で本会議の歴史的評価は定まるのであろう。 気候変動枠組の視点で言えば、本会議期間内で京都議定書発効には至らなかったものの、今後のCOP交渉に影響を与えるであろういくつか事項が合意されている。以下、京都の文脈の中で合意文書を解釈してみたい。




「京都議定書批准」

 途上国の中でGHG排出量の太宗を占める中国とインドがWSSD期間中に批准した。ロシア、ポーランド、カナダも早期批准に向け積極的演説を行ったことにより、議定書発効の見通しが明るくなった。「批准した国は批准していない国に批准を強く促す」という合意は、離脱を表明している米国、豪州への直接のプレッシャにはなりにくいが、全ての国が共通の枠組みで取り組むべく外交交渉を鋭意進めている我が国にとって、京都の言及を果たしたことは大きな意義を持つ。

「再生可能エネルギー」


 EUの主張する目標値は設定されず、世界のシェアを十分に増大させるとの内容で落ち着いた。これはエネルギー政策の各国主権を尊重するものである。京都議定書、マラケシュ宣言に至る国際交渉での理想と現実のせめぎ合いの反映であり、リオサミット時の環境至上主義が、開発に軸足を置いた環境政策路線へ世界の関心は移っていることを示唆している。

「予防原則」

 化学物質および有害廃棄物の持続可能でない生産消費形態の変更において、予防的アプローチを考慮するとなったが、気候変動に関して予防原則およびその拡大解釈の言及は無かった。2005年までには始まることになっている第二約束期間からの各国の負荷分担設定値コンセンサス醸成に京都以上の厳しさはないものと思う。

「共通だが差異ある責任」

 気候変動の交渉の中で生まれた言葉であったが、本サミットでは環境イシュー以外でも使われており、各国負荷分担概念として格上げされた感がする。第ニ約束期間以降の途上国の参加を求める今後の交渉過程でこの言葉をめぐる攻防は激しさを増すであろう。まずは先進国が範を示すべきという途上国側戦術に勝てる理論武装をアネックスⅠ諸国と共に探って行かなくてはならない。

「ODA」

 途上国が主張した目標値設定は採用されず、対GNP比0.7%達成を目指すというモンテレー合意が踏襲された。貧困撲滅、経済成長および持続可能な開発に対し、効率良く使用することが謳われており、環境保全への言及は無い。CDM要件でODAの流用を禁止したCOP交渉経緯を反映したものとなっている。

「所感」

 本サミットは、経済発展、社会開発および環境保全がテーマであるが、合意内容を俯瞰すれば、正式名称通り、環境の側面を有した開発サミットと言うことができる。それぞれのイシューは個々に独立性はあるものの、それらは互いに有機的に連関を持っており、今回各国首脳が集まってそれらの統合的な指針を出したことの意義は大きい。COP交渉への影響について直接的な条件・要因にはならないが、ここで生まれたコンセンサスは今後の交渉の道標を示唆したと言えるかも知れない。

(文責 小田原博史)
会場となったサントン・コンベンションセンター
米国への抗議を唱えるグループとこれを取り囲みながら成りゆきを見守る警官

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