2002年5号

ヨハネスブルグサミット出席報告

さる8月26日~9月4日まで、南アフリカ共和国のヨハネスブルグで持続的開発のための世界サミット、通称WSSD(World Summit on Sustainable Development)が国連の主催で開催された。
1992年のリオサミット以来10年ぶりとなるこの世界会議に地球産業文化研究所からは木村専務理事はじめ3名が出席、本会議傍聴を主体にサイドイベント及びパラレルイベントなどにも参加した。
以下、全体の印象,所感,見聞のあらましなどを報告する。




WSSD雑感

専務理事 木村耕太郎

 今般ヨハネスブルグで開催された「持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD)」に出席する機会を得た。会議の成果については既に様々なところで詳述されているので、本稿では筆者の感想を述べるに留めたい。

 当初は6万人が参加すると報道されていたが、約2万1千人が参加した模様であり、前回のリオ会議を上回る規模であった。191カ国の政府代表に加え、NGO、産業界も積極的に参加し、多くのstakeholderの関与が本問題の解決に不可欠である事を改めて印象付けた。政治宣言の採択を巡り混乱があったものの、会議の運営は比較的円滑に行われ、南ア政府、国連事務当局とも面目を施したものと思われる。多くのNGOが参加し活発に活動していたが 、WTO閣僚会議などとは異なり大きな混乱は生じなかった。これは時には軍隊をも動員した厳重な警備体制の効果もあったと思われるが、NGOの活動拠点を本会議場から約20km離れた見本市会場に設定した南ア政府の作戦が功を奏したとの印象を持った。

 WSSDは京都議定書を巡る議論等から環境が最大の争点であるかのような印象を与えているが、題名が示しているとおり「開発」を巡る会議であり、環境が大きな争点であることは当然であるがエネルギーや達成の手段である開発援助、貿易も劣らず重要な争点であった。にもかかわらず、こうした問題に必ずしも精通していない環境大臣がメインプレヤーであった事は議論を徒に長引かせる原因の1つと思われる。また議論の透明性の確保は必要であるが、その効率性の確保も重要であり両者の妥協策としてウィーン方式が採用されたと思われるが、当初の目的を十分に果たしているのであろうか?民主主義のコストと考えるべきであろうが、今後グローバライゼーションが進み益々多くの利害調整が必要と見込まれる中で、適切なプレヤーの選定と併せ困難な問題である。

 今般、新しい試みとして各国が自発的にパートナーシップを組んで実施するプロジェクトやイニシャティブをとりまとめた「約束文書」が登録された。NGOや民間企業も参加しているものもあり「実施計画」を実現するためにはあらゆるリソースを動員しようとするもので興味深い。本問題の広汎多岐性に鑑みれば取り組みの方向としては有効と思われ期待したい。なお、これとは直接関係は無いが現地の人々(indigenous people)の代表がプロジェクトの計画段階からの参加の必要性を述べていた。影響を受ける人々の意見を反映させるのは当然であり、またプロジェクトの成功にも不可欠である。もっとも一部の反対で多数の利益が損なわれないようにルールを運用するのは容易ではないが。我が国においてこの参加ルールを無視した不幸な例が成田空港であろう。帰途香港の立派な新空港に降りたった時この事が頭をよぎった。

 ジンバブエのムガベ大統領が一般演説の中で自らの土地政策を擁護し、ブレア英首相に対し、「ブレアよ、お前は英国のことをやれ。ジンバブエは自分が治める。」(原文どおりでは無く意訳)と述べた時大きな拍手が起きた。(反対にパウエル国務長官がムガベ大統領を批判した時は大きなブーイングが起こった。)ご承知のとおりアフリカはヨーロッパ諸国の植民地を経験し、冷戦下において増幅されたものもあるが、現在の状況をもたらした原因のあるものは植民地時代に遡れる。このエピソードはアフリカとヨーロッパとの間に存在する歴史の重さを想起させた。

 最後に南アの印象について述べたい。筆者にとって初めてのサブサハラ諸国への訪問であり治安問題から自由行動は出来ず見聞が限られており、極めて一面的である事はお許し願いたい。まず多くの建物は塀で囲まれ、上部や隙間は有刺鉄線(電流が流せる構造のものも多い。)で覆われている。これは中産階級以上の住宅地にとどまらず、シャトルバスから垣間見たダウンタウンにおいても見受けられた。他方会議場の周辺は立派なショッピングモールであり商品が潤沢に販売されていた。また、近くのクラブでは自家用車で馬を持ち込み楽しむ光景も見られた。これらは富の偏在を雄弁に物語っているが、ショッピングモールでは多くの非白人も買い物をしており、筆者が接触した人々(ホテルのフロントやドライバー)の資質は他の発展途上国に劣らず,豊かな資源の存在とそれを活かす政策の実施を前提に南アの将来に期待したい。(了)
パウェル国務長官の一般演説
この直後、一斉ブーイングを合図に "Betrayed" の横断幕騒ぎが起きた
本会議場のあるサントン地区全景

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