2002年6号

我が国エコビジネスのグローバル戦略研究委員会


平成14年度より、山本良一・東京大学国際産学共同研究センター長を委員長として、標記研究委員会を開催する。以下にその概要を紹介する。


1. 背景経緯

○途上国への環境技術移転の状況
 
 東アジアの途上国では、急速な経済成長を続けている反面、大気汚染、水質汚濁、廃棄物問題等の産業公害・環境問題が深刻化し、今後、更に悪化することが懸念されている。途上国においても、環境政策が講じられつつあるが、環境規制に実効性が十分にあげられておらず、環境装置・技術の導入に対するインセンティブも不十分である。グリーンエイドプランなど我が国官民の環境技術移転も、人材育成や、固有問題の解決に成果をあげつつあるものの、普及面での課題に直面しており、途上国のニーズを適切に評価して実施することが求められている。脱硫設備等、エンドオブパイプを軸とした環境設備は、それ自体が利益を生むものでは無い。生産性の向上、省エネルギー等により導入コストを内部化することが必要であるが、途上国のエネルギーコストは安く、環境投資を短期間で回収することを担保するのは難しい。

○我が国エコジジネスの海外マーケットにおける位置付け
 
 我が国の環境装置の受注額は約1兆2千億円(2001年度)であり、海外需要はそのうちわずか約3%(約323億円)である。また、海外需要の推移は直近の3ヶ年間で約4割減少しており、国内需要の伸び悩み同様、減少傾向にある。

 製品サービス融合財として、将来的に我が国経済産業を牽引する役割が期待されるプラント・エンジニアリング産業においても、特にアジアの環境市場におけるプレゼンスは低く、企業毎の総花的なアプローチによる取り組みが点在するレベルに留まっており、我が国のエコビジネスの拡大に寄与できていない状況である。

 他方、欧米においては、AEP(米国:Asia Environmental Partnership)やアジアエコベスト(EU)など環境分野における専従の支援組織が存在し、セミナー、政策対話、人的交流の拡大策等を通じて、自国企業と政策決定者・潜在的な顧客との密接な関係を醸成することで自国のエコビジネスチャンスを創出している。このような官民一体となった支援体制の下に、統合的な戦略・体制作りを行い、自国企業のビジネス活動を下支えする戦略的対応を構築している。

 環境プラント事業の拡大を図るためには、研究調査、技術移転策、制度構築支援、人材育成等様々な取り組みが必要であるが、構造的な体質改善のための経営・事業核心に迫り、戦略的かつ長期的・継続的にビジネス活動を安定成長させていくための戦略を策定し、官民が一体となったより包括的な枠組を構築することが必要である。

 例えば、環境技術については、我が国が得意としてきた廃水処理・大気汚染防止分野の輸出市場は縮小傾向にあり、今後の成長分野と期待されるエネルギー分野、再生エネルギー分野、廃棄物・リサイクル分野では欧米企業がリードしている。このようなことから環境技術の戦略的移転を通じたエコビジネスの展開のために我が国として如何なる体制をもって戦略を構築し、そのために官民が取り組むべき課題と対応策とは何かを早急に検討していくことが必要である。また、事業形態についても、特に環境分野においてはソフト型で勝負する基盤が弱く、単に欧米企業のビジネスモデルを追随することには限界がある。そのため、日本型のエコビジネスのあり方を検討し、アジア開発途上国等に普及させ、信頼を定着させていくことが長期的な視点から求められる。更には、環境分野におけるプラント・ビジネスは、ともすれば、特別円借款等公的資金に依存する傾向が強く、高コスト、オーバースペック体質となっており、現地での調査力、リスク管理力も弱いとの指摘もある。このような収益性の低い事業構造をどのように改善していくのか、経営マインドの改革を踏まえ議論していく必要がある。

○問題意識
 
 プラント・エンジニアリングは知的付加価値産業として伝統的に我が国輸出の重要な位置付けを有している。韓国・中国の価格競争力や欧米の業界集約化の前に近年国際市場におけるシェアは低下しているものの、エコビジネスにおいては、動脈産業の発展に伴い、その静脈としての重要性が認識され、マーケットの巨大さ、多様さ、新規さから今後の有望戦略商品と考えられている。従来モデルの踏襲だけでは、環境技術移転を通したエコビジネス競争力強化は不可能である。経済と環境の優先課題の相違が協働行動の障害とならぬよう、環境技術移転を国際貿易や経済競争力への関心と調和させる新しいパラダイムをデザインすることが必要である。


2.調査目的

 このように、プラント・エンジニアリング産業はエコビジネスを拡大展開していく上で、様々な課題を抱えている。関連する業界団体にて、外部環境(機会と脅威)、内部事情及び海外における取り組み実態等について取り纏められており、本調査においては、我が国のエコビジネスを拡大展開するという視点から、プラント・エンジニアリング産業の環境分野での事業展開拡大を目指した初のビジョンを策定し、その達成のために必要となる政策支援及び民間ビジネスのあり方を検討する。


3.検討項目

1 現状と課題の再整理

2 ビジョン策定(市場(重点国・地域、将来市場規模等)、分野(重点成長分野)等)

3 具体的達成手法(政策支援のあり方、民間ビジネスのあり方等)の検討

4 個別検討事項として、特に、
  環境技術の効果的・戦略的移転によるエコビジネスの拡大戦略
  我が国独自のエコビジネスのあり方(顔の見えるエコビジネスのあり方)
  我が国独自の環境分野支援組織の必要性、あり方
  CDM、JI、排出権取引等京都メカニズムへの戦略的取り組み
  貿易と環境の調和

4.委員会メンバー構成(委員長:山本良一 東京大学国際産学共同研究センター長)
  有識者
  政府機関専門家
  産業界

5.研究委員会スケジュール
平成14年度 現状の課題、具体的達成手法、個別検討事項等を検討し中間報告書を作成
平成15年度 市場および分野におけるビジョンを検討し、環境プラントエンジニアリング戦略ロードマップを策定

(文責 小田原博史)

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