2020年1号

変化する世界の環境エネルギー構造と日本の対応の発展



 1.深刻化する異常気象
 2019年の夏には猛暑がヨーロッパ大陸を襲い、フランスでは一時46度を記録した。日本でも幾度か台風が襲い、台風19号は関東地方に多くの被害をもたらした。その主な原因は地球温暖化による海水温度の上昇にあるという説が有力である。国連気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)は、2019年12月15日会期を2日間延長して閉幕した。「産業革命前からの気温の上昇幅を2度未満に抑えるパリ協定の目標と各国が提出している削減目標に差があることを考慮して目標を再提出する。」などに合意したが、気候変動の影響を強く受ける島嶼国や環境NGOなどが求める対策の強化などは見送られた。
 世界の温暖化ガスの排出量は、増加傾向にある(表1参照)。

 

 表1 世界の二酸化炭素排出量推移 (単位100万トン)

 

1990年

2000年

2010年

2018年

日本

1,086

1,218

1,185

1,150

米国

4,947

5,739

5,403

5,018

英国

595

566

529

391

ドイツ

1,008

851

770

717

中国

2,327

3,361

8,129

9,420

インド

603

963

1,661

2,481

世界合計

21,304

23,667

30,980

33,685


 2018年に世界の二酸化炭素の排出量は337億トンにも達した。主要排出国の足並みが乱れていることがその背景にあるのであろう。現実に気温上昇も、海面の水位上昇も、20年前の予想を大きく上回るようになっている。

 

 表2 地球温暖化現象の進行

 

 気温上昇予想

 海面水位上昇予想

20年前の予想

1.0-3.0度

35-65cm

最近の予想(IPCC)5次報告

2.6-4.8度

45-82cm


 次年のCOP26に向けて、主要国は対策の強化に協力していく必要がある。とりわけ、パリ協定の効果的実現は、喫緊の課題である。同時に地球全体で対応する意味で、私は一部で提案されている国際環境税を導入し、それを発展途上国への支援と技術開発に充当するという提案は検討に値すると考えている。

 2.変貌する新エネルギー市場
 世界の新エネルギー市場の開発状況を見ると、最近、日本の遅れが目立つ。1970年代の2度にわたる石油危機で日本はいち早く新エネルギー開発に取り組み、1990年には世界の新エネルギー供給の48%を占めていたが、日本の比率は2017年に4%に、2050年には2%に低下し、一方、中国が30%、米国が20%、EUが16%、インドが10%になるという。日本は、残念ながら、新エネルギー開発の国際競争に完全に後れを取ったのである。

 

 表3 風力、太陽光国別供給構成(%)

 

1990年

2017年

2040年

2050年

日本

48.0

4.0

2.0

2.0

中国

0.0

34.0

33.0

30.0

インド

0.0

4.0

9.0

10.0

米国

12.0

18.0

20.0

20.0

EU

12.0

28.0

18.0

16.0

(出典) エネルギー経済研究所IEEJアウトルック2019

 

 発電コストを見ると、2018年で、1kwh当たり、太陽光について日本が16.2円であるのに対し、中国、インドが6.6円、米国が8.6円、風力について日本が15.8円であるのに対し、中国、米国が5.0円、インドが6.5円で、日本が格段に立ち遅れている。中国などでは、1kwh当たり2.0円になるという予測さえある。

 

 表4 新エネルギーの発電コスト比較(kwh当たり円)

    日本 中国 インド 米国 EU  
太陽光 2010 64.0 31.4 31.8 20.9 34.7 (ドイツ)
  2018 16.2 6.6 6.6 8.6 11.9 (ドイツ)
風力 2010 22.0 7.3 8.5 8.8 11.0  
  2018 15.8 5.0 6.5 5.1 7.6  

(出典) IRENA(2019) Renewable Generation Costs in 2018

 

 ヨーロッパでは地域を連携するネットワークが整備されており、アジア大陸でも中国を中心にその動きがある。そうなると、日本をめぐる条件は、ますます不利になる。

 3.不安定性を増す国際石油市場
 米国がオイルシェールの開発に力を入れ、石油の輸出国とはなったが、世界全体では中東地域の石油に大きく依存している。その中東地域では、政治上の安全性が大きく揺らいでいる。米国は、シリアから徐々に手を引こうとしているが、それを狙ってロシア、トルコなどが軍事介入の度を高め、イスラエルも対決姿勢を強めているし、イランに対しては核開発をめぐって欧州諸国と意見を異にして激しく対立している。加えて、サウジアラビアがイランと対立姿勢を強めている。その中東地域では、安全保障上の不確実性が高まっている。
 日本、中国、韓国などは中東石油に大きく依存しており、ペルシャ湾での安全航行をいかに確保するか、かたずを呑んで見守っている。米国が中東地域への関心を低下させるとなれば、ロシア、トルコなどが介入の度を強める可能性があり、その不安定な動きは、世界の石油需給に大きく影響を与える可能性がある。国際政治環境にはエネルギー政策として十分配慮すべき課題である。

 4.日本の環境エネルギー構造の改革
 日本の環境エネルギー構造は、その脆弱性を高めつつある。エネルギーの自給率は、2018年には、東日本大震災による原子力利用の低下が影響して9.6%に低下し、先進国で最低の水準にある。石油の中東地域への依存度は1979年の75.9%から2018年12月には87.3%へと上昇し、不安定性を高めている。
 COP25では日本の石炭火力への批判が高かった。2010年に発生した東日本大震災により原子力発電への批判が高まり、電力電源を石炭やLNGに代替することになったが、石炭への依存の上昇は、温暖化の原因として国際的に強く批判された。一方、政府の中期エネルギー需給見通しでは、原子力の依存を20%台としているが、原子力利用に対する国民の批判が強い。
 1970年代に石油危機が発生した当時、日本はいち早く新エネルギー開発に取り組んだが、米国やドイツはもとより、中国、インドにも完全に追い越されている。日本としては、COP25への対応を契機に、環境エネルギー政策を抜本的に見直す必要がある。
 第一に、再生エネルギーの主力電源化である。そのために、電源特性に応じたインセンティブの付与、関連技術の向上、再生エネルギー事業環境のサポートなどが必要であろう。
 第二に、水素エネルギーの本格的な利用への環境整備である。当面、燃料電池自動車、エネファーム等燃料電池を通じた水素利用の拡大を図るとともに、長期的には、水素発電や国際的なサプライ・チェーンの構築などに取り組む必要がある。
 第三に、原子力開発の国民の理解に向けた課題の解決である。安全運転の確保はいうに及ばず、廃炉、廃棄物処理などを含む全体の課題解決を図り、社会の理解を得る努力が必要である。
 第四に、エネルギー関連技術の総合的革新である。革新的なエネルギー関連技術の進化を図るとともに、AI、データ通信を含む技術革新をエネルギー分野にも、積極的に取り入れる必要がある。

(結び)
 環境エネルギー政策の充実、強化は緊要の課題である。政治、経済、社会、技術、情報、文化などあらゆる分野の革新を視野に入れて、新しい政策体系を再構築しなければならない。

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