2021年1号

2021年新春を迎えて ー世界を展望し、日本の将来を考えるー



 1.時代認識―停滞と分断への懸念

 武漢でコロナ感染症が確認されてからほぼ1年、その感染は190か国に及び、2020年12月には感染者が約8000万人、死者が170万人に及んだ。米国などはワクチンの開発に努め,漸く実用に近づいてきたが、多くの国は未だにロックダウンなどの対策で対応せざるを得ない状況にある。早く経済活性化に移行した米国や欧州の一部の国はコロナ感染症が再発し、ロックダウンに戻り、苦悩を続けている。
 当初徹底した管理を実施した中国は、経済が回復過程にあるが、多くの国は経済がコロナ・ショックに悩まされ、IMFの見通しによれば、2020年の世界経済はマイナス4.4%の成長に陥り、その停滞は、2008年のリーマン・ショックの時よりも深刻であるとされている。経済成長の回復、通貨金融の安定への国際協調が不可欠である。
 ここ数年世界政治の動きをみると、主要国の社会意識が内向化し、自国利益優先の傾向が高まっている。とりわけ、米国では、トランプ大統領の「米国第一主義」でその傾向が如実に現れている。2018年頃から米中間では貿易不均衡から激しい交渉が展開され、最近では政治、経済、貿易、技術、金融、軍事の覇権争いとなっている。世界秩序への意識がルールによる協調よりも力による支配が中心となっている。グローバリズムの再生が急務である。
 地球環境の悪化は著しい。最近、温度上昇が加速し、生活環境の劣化、災害の多発、水や食料の不足、感染症の拡大などが懸念されている。最近に至って2015年のパリ合意の実行の気運が高まってきた。日本でも2050年に「カーボン・ニュートラル」の目標を掲げるようになった。

 2.2021年日本の政治経済の課題

 2021年の日本の政治経済の課題の第1は、ニュー・ノーマルの早期実現である。それには、ロックダウンと経済活性化の政策の慎重かつ適切な組み合わせが必須である。これは、オリンピックの開催のためにも不可欠である。
 第2は、国際医療協力回復への働きかけである。WHOは、病原菌の特定、治療方法の確立などに十分な成果を挙げ得ず、米国トランプ大統領は、WHOに脱退通告を出した。しかし、早期の安定を図るためにはWHOの活性化を始めワクチン開発などへの国際協力を加速する必要がある。
 第3には、日本の医療貿易構造を改革することである。2000年から2019年にかけて医薬品貿易は、世界規模で約6倍に、医療機械・器具の貿易では約4倍になっている。とりわけドイツは、両者とも大きな輸出超過で、世界に貢献している。日本は、医療機械・器具では輸出入がほぼ均衡しているが、医薬品では輸入超過になっている。この分野は、人類に最も貢献できる分野である。規制改革と関係企業の努力を促進する必要がある。
 第4は、経済成長への国際協調を図ることである。人の移動は、段階的に緩和される方向にあるが、感染を防止しつつ、慎重かつ積極的に展開していく必要がある。さらに、感染が安定すれば、主要国間で経済成長に向けて政策協調を進めることになる。財政構造改革への道筋も検討する必要がある。
 第5は、日本社会の革新力を再生することである。日本の現状を見ると、政治および行政の政策力が停滞している。民間企業の政府依存の傾向も強い。発信力、説得力、行動力も国際的に劣位にある。
 第6は、エネルギー、環境条件の脆弱性を克服することである。日本政府は2050年にカーボン・ニュートラルの実現を公約した。しかしその実現は、容易ではない。1970年代には、日本は石油危機を乗り越えるため、省エネルギーの推進と新エネルギー開発の促進に努力した。前者は世界でも誇りうる状態にあるが、後者、すなわち、太陽光発電、風力の利用などでは、中国、米国、EUに完全に後れを取っている。しかも、欧州内部では相互連携が進み、アジアユーラシア地方でも地域連携の動きが高まっている。日本の努力は必須である。

 3.世界と日本、その長期的課題への挑戦

 第1は、世界運営秩序をグローバリズム定着に向けて、再建することである。ブロック化が世界に対立を招き、混乱と不況に導いたことは歴史が証明している。それには、国際間の信頼醸成が必須である。4極(米国、中国、EU、日本)を中心に、世界秩序運営の制度化を図る必要がある。そして総合安全保障(政治、経済、社会、人間)の制度化を図るとともに、SDGs実現への枠組みを整備する必要がある。
 第2は、グローバリズムの基礎を確認することである。グローバリズムの基礎をなすものは、国際間の信頼であり、協調の精神であり、高度の市場機能であり、法治主義の尊重である。医療協力を含む人間安全保障の確保も必要である。
 第3は、「文明の衝突」を超えて「文化の共栄」を図ることである。1996年、ハンチントン教授は、「文明の衝突」と題する著書を発表し、注目を集めた。彼は、世界を8つの文明圏に分け、21世紀にイスラム文明圏の中、イスラム文明圏とキリスト教文明圏及びキリスト教文明圏と儒教文明圏の間で衝突が起こると予言した。しかし、高度の文化は、人類が等しく求める高次元の価値であり、対立を超越するものである。
 第4は、質の高い経済を実現することである。質の高い経済とは、一人当たりのGDPが高く、かつ付加価値率が高く、創造力の豊かな経済である。社会保障体制が充実していることも必要である。
 第5は、イノベーション力を充実することである。世界では、人工知能(AI)などの情報通信技術を基軸に、生化学、高度医療、電気自動車、スマートシティ、材料科学、環境保全など広範囲にイノベーションが展開されている。その先頭を走るのは米国、中国であり、欧州がこれを追っている。日本は大幅に立ち遅れている。オープン・イノベーションを基軸に、基礎研究の充実、異分野技術の融合、産学官の連携など抜本的にイノベーション力を高めなければならない。
 第6は、脱炭素に向けて共同挑戦を展開することである。日本は、石油危機当時は、省エネルギー、新エネルギーに関する技術開発では先行していたが、最近では、新エネルギーの拡充、ネットワーク化などで国際的に後れを取っている。国際協力を加速する観点から国際均一の炭素賦課金を導入し、途上国支援、技術開発、共通ルール研究などに充当する仕組みも検討に値する。
 第7は、日本の企業経営の革新を図ることである。日本企業は、欧米諸国に比べて収益力も生産性も大幅に立ち遅れている。収益価値、顧客価値、従業員価値、そして社会価値で構成される企業価値の極大化に向けて、経営力の抜本的な強化が必須である。
 第8は、文芸理の融合を図ることである。文化的価値、芸術的価値、そして理科学的価値を進化し、融合することにより新しい価値を生むことができる。その源泉は人間の発想力であり、構想力であり、実現力である。

 終わりに
  着着寸進 洋々万里。
  我々は、上記の課題解決に向けて一歩ずつ着実に歩を進めることができれば、明るい未来を拓くことができよう。2021年を長期的な課題に挑戦する第一歩を踏み出す年にしたいものである。
   

 

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