2004年5号

IPCC第22回全体会合参加報告 -統合報告書の作成について- 2004年11月9-11日 インド・ニューデリ

Lighting of Lamp Ceremonyの様子
 2004年11月9-11日、インドのニューデリにおいてIPCC第22回全体会合が開催された。今回の目玉は、なんと言っても第4次評価報告書(AR4)の統合報告書(SYR)の作成有無であった。2年間の長い交渉の末やっとその作成が合意され、盛り込むトピックスや大まかな執筆スケジュールが決定した。本総会の全容は近日掲載予定の参加報告書に譲るとし、本稿では特にSYRの決定事項について記すこととする。

 AR4の各作業部会報告書は、一部共通テーマもあるが基本的には担当分野が区分されており(担当分野は次の通り:第1作業部会:気候システム及び気候変動の関する科学的知見、第2作業部会:気候変動に対する社会経済システムや生態系の脆弱性と気候変動の影響及び適応策、第3作業部会:温室効果ガスの排出抑制及び気候変動の緩和策)、各報告書を読むだけでは温暖化問題の全容が見えてこない。それは政策決定者や専門的なバックグラウンドを持っていない読者にとって、時に書きぶりが技術的過ぎたり、量が膨大であるため読み切れなかったりと使いにくい面もある。しかし、その3つの作業部会報告書の内容をまとめ、多面的な視点から見た温暖化問題の研究結果を記すSYRは、まさに総合的観点から政策を決定する者にとって大きな影響をもたらす。

 そのような状況の中で「どのようなSYRを作成するか」は各国の政策や国際的な取り組みの方向性までをも左右する極めて重要な問題であり、従って各国政府は少しでも自国の国益につながるような内容を盛り込もうと必死の努力をする。例えば、「GHG濃度の長期安定化」という言葉をトピックスに盛り込むことについて、中国・サウジは反対したがUK・オーストラリア・カナダ・ロシア等はUNFCCCの究極の目的(第2条)の観点からの分析は不可欠として対立した。最終的には、UNFCCCの目的(この場合、危険でないレベルでGHG濃度を安定させるという究極の目的だけではなく、悪影響を受ける国々への援助や共通だが差異ある責任等様々な目的及び条項も含む。)に矛盾しないという前提で、緩和・適応措置に関連する科学的・社会経済的な側面について「長期的な観点」から分析することとなった。つまり、実際は「長期安定化」という言葉を利用しなかっただけで、そのような分析が行われるのに変わりはない。執筆者へのガイダンスの中で使用される言葉にさえ固執し徹底的に反対を貫く中国やサウジの姿勢は、いかにそれらの国が将来課される削減責任に敏感になっているかを如実に表し、今後UNFCCCのCOP等で行われる将来枠組み交渉の難しさを暗示していると言える。

 AR4におけるSYRは下記のように決定された。AR4の執筆作業が進めばまた様々な問題が持ち上がると思われるが、今後も国際的な取り組みの流れに大きく影響するSYRの内容には大いに注目していく必要があろう。

決定事項:
  作成有無:各国ともTAR時におけるSYRの重要性を痛感している様子で、SYRの作成を否定する意見は述べられなかった。
  長さ:SPM最高5ページ、本文最高30ページ(共に図表含む。インデックスは含まない。)の2部構成でTAR時の構成を踏襲。
  形式:Q&Aではなく各トピックについて文章で書くスタイル。(再びQ&Aを希望するような意見も出されたが、今までの議論を考慮して文章形式が優勢となった。)
  承認・採択手順: 「IPCC作業を管理する上での原則」(”Principles Governing IPCC Work”)に則りSPMは行毎に承認、本文はセクション毎に採択。なお、SYRの定義の見直しは行わない。
  内容(トピック):実際現時点では具体的な内容を分かりえないことからあくまでもガイダンスとしての位置づけ。
  観測された気候変化とその効果
  変化の原因
  様々なシナリオに見られる短期的・長期的未来の気候変化とその影響
  地球・地域レベルにおける適応・緩和オプションとその反応、及び持続可能な発展との相互関係
  長期的な観点:UNFCCCの目的と条項に矛盾せず、かつ持続可能な発展という状況から見た適応措置・緩和措置の科学的・社会経済的側面について分析
  執筆チーム(Writing Team):IPCC議長及び各WGの共同議長にプラスして、各WGの執筆者から4-6名ずつ。選定は2005年末頃IPCC議長が行い、ビューローによって承認される。
  作成スケジュール:非常にタイトなスケジュールであるため完全には決定されなかったが、とりあえずその方向で進める予定。なお、UNFCCCには、COP13までに完全な形でSYRを提出して欲しければ会期を1ヶ月延期することも検討して欲しいと要望を出した。
   
2005年末 Writing Teamのメンバー選定
2006年8月28日週 Writing Team結成。AR4WG報告書の第2草案が専門家・政府レビューに送られた後、執筆を開始。
2007年4月30日週 すべてのWG報告書が承認・採択される。(WGIIは2週間、WGIIIは3週間完成を早めることとなる。) SYRの書き上げ。
2007年5月7日週 SYRの第1専門家・政府レビュー(8週間)
2007年8月27日週 SYRの最終専門家・政府レビュー(8週間)
2007年10月22日週 提出されたコメントを反映
2007年10月22-26日 IPCC総会で承認・採択
2007年11月5-16日(予定) COP13にSYR未編集版を提出予定。
  その他:SYRの作成には、SYRのマネージメント、電子出版、アウトリーチを行うコミュニケーションの専門家等追加スタッフを雇用する予定。
 
以上

(地球環境対策部 蛭田伊吹)

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