デュビー氏(国際連合グローバルコンパクト事務局次席)は、グローバル社会で大きな影響力を持つ企業セクターが、人権,環境,労働条件等への配慮等グローバルコンパクト全9項目の原則に則った自発的行動を起こすことが世界を変えてゆくと述べた。
谷本寛治教授(一橋大学大学院商学研究科教授)は、キーノートスピーチによって、以後の2セッションの意義づけ
をされた。 セッションテーマ1「企業の社会的責任とサステナブルソサエティ」
座長の久保田政一氏(日本経済団体連合会国際経済本部長,CBCC常任理事)がグローバルコンパクトをはじめとするCSRに関わる各種のイニシァティブ,原則,基準を概説したのち、各々パネリストからのショートプレゼンテーションが行われた。 |
M.ベイトマン氏(社会責任投資研究センター<IRRC>常務取締役,GRI運営委員会・レビュー作業部会メンバー):サステナビリティ、つまり環境や社会的責任にどこまで関わることができるのか懐疑的な企業がまだ多いが、彼等は三つのボトムライン、則ち経済=環境=社会的責任が相互に深く関連していることを理解すべきだ。企業は株主尊重からマルチステークホルダーとの対話へシフトすべきであり、それが自らのリスクの所在を知ることにもなる。企業の責任としてまずGRIが上げられるが、このほかSA8000,AA1000などの基準や
イニシァティブがある。これらは重複する項目もあるが、いずれかひとつを満たせばよい、というものではない。各ステークホルダーにとってそれぞれ重要なものがあるはずでステークホルダーの間のコンセンサスを得ることが重要になるだろう。グリーンウォッシュについては企業批判に走りがちなNGOとの対話がとくに重要となろう。またCSRの概念は単一ではなく、ステークホルダーとの対話によってそのキーファクターは今後変わっていく可能性がある。 |
稲岡稔氏(イトーヨーカ堂常務取締役,コー円卓会議日本委員会主幹事):日米で続発する企業不祥事に触れ、公的な存在であった大企業の実質的消滅は、最大の罪悪であり、誠実さの欠如,言行不一致がその根源にあるのだろう。企業の存続はステークホルダーの支持の有無にかかっており、日本の某食品会社は顧客の支持を失い消滅した。米国エンロンは株主と株式市場の信頼を失い失墜した。さらに、その監査法人アンダーセンもまた、顧客の支持を失い実質的に廃業に追い込まれた。監査制度がありながら機能しない現在、不祥事の抑止は経営者の危機意識に頼るしかなく、どのようなコーポレートガバナンスを築くのか、日米双方のビジネスセクターにとってのこれからの重要な課題である。
| Q1: | 中国産野菜の農薬問題、食品添加物問題など食品流通業はどういう対応を考えるのか? | |
| A1: | 前例のない問題で技術的な困難もあり対応策の作成方法が不明だ。「・・・すべし」というルールは作れるがその先どうするのか難しい。経営の監視体制が作られつつあるがいまだその途上であり、これは日本のみならず欧米も悩んでいるところだ。 |
| Q2: | ステークホルダーとの対話が重要、ということだが、ステークホルダーすべてが対話能力を持っている訳ではない。育成することが必要ではないか? | |
| A2: | 確かに消費者は分散化され力がない。彼等と対話する為に企業は知識,経験など自己蓄積の活用をはかるべきだ。一方、ステークホルダーのサイドでもNGOが代理人となるなどが考えられる。 |
| Q3: | 途上国での事業活動に伴う環境問題悪化と雇用機会提供との矛盾についてどう考えればよいのか?ステークホルダーの間に尊重(優先)順位があるのだろうか? | |
| A3: | 児童労働の問題も同様だが、教育を行いつつ雇用するということでよいのか?解答は得られていない。企業、受け入れ国双方で協力して解決策を探るべきだろう。 |
まず、座長の岡部一明氏(東邦学園大学経営学部助教授)が、さまざまなソーシャルアントレプレナーからの活動紹介を通して、社会的課題への事業的アプローチの可能性を汲み取ることができるだろうと導入、これを受けてパネル4氏からのプレゼンテーションでセッションが進められた。 |
K.ダイグルマイヤー氏(ジュマベンチャーズチーフストラテジスト):ジュマベンチャーズは都市部の青少年に雇用と事業を提供・支援する社会事業型NPOである。拠点のサンフランシスコで家出少年、学生、ドロップアウト青少年に職を与えるべく、キャンディメーカーB&J社と連携、経営を開始した。その後彼等のレベルアップ研修が必要と判断、研修プログラムサービスを加えた事業モデルを組み上げ軌道にのせることができた。ジュマのこの挑戦の成功のカギは辛抱強さとアイデアを膨らませるイマジネーションの力であった。
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杉山さかえ氏(NPO法人北海道グリーンファンド理事長):市民による風力発電事業の立ち上げは、脱原発という告発型市民運動の限界を認識したことが出発点である。代案としての風力発電事業を実現できたのは、地元北海道電力の協力、環境保護へ自ら参加したいという意識を持った市民の支持、資金調達方法の工夫などが実現の原動力となった。また風車設置地域の住民の理解も大きな力になった。「未来への投資」という理念が、必ずしも収益性の高くない本事業への投資を促したのだろう。今後さらにこのスタイルでの風力発電事業の普及を進めたい。
宮城治男氏(NPO法人ETIC代表理事):学生、若い世代による起業が社会のイノベーションを引き起こすとの考えから、その起業家精神を鼓舞し、行動を起こさせるためのさまざまなプログラムで支援を行い事業を軌道にのせた。学生の持つ問題意識が最も重要な要素で、総じてその意識は社会的指向が強く、事業収益を目的とする意識は一般的に希薄である。しかし彼等の企画への助言として、事業形態については、まず営利企業型を勧めている。NPO型事業形態は現行国内制度のもとでは運営制約が多すぎるからである。事業の立ち上げについてごく最近、企業の協力でインキュベーションプログラム「学生NPO起業塾」をスタートさせた。社会的課題解決を目的とするNPO型事業を起業・運営するための理論と実践の学習を通じ人材育成を図っている。
杉田氏(経済産業省大臣官房政策企画室長):これからの社会での公益サービスが政府による一元的供給型から企業・市民社会も加わる多元的供給体制に変わり、医療,福祉,教育などで企業やNPOの役割が増える。特にNPOに対してガバナンスの改善が求められる。NPOが活動するための環境整備や新たな施策も必要であり、資金調達と密接に関わる寄付税制の改正については関係方面への働きかけを行いたい。
(文責:シンポジウム事務局 竹林忠夫) |