2003年3号

第3回世界水フォーラム参加報告(概要)


 国連の資料によると、現在世界人口の6分の1にあたる12億人が清潔な水の安定した供給を受けられない状態であり、劣悪な衛生状態にある人々の数は世界人口の5分の2に当たる24億人に達しているといわれている。また、その結果として、水に関する病気で毎年2億人以上が苦しみ、毎日6,000人を超える子供が命を落としていると言われている。さらに、21世紀は人口増加および地球温暖化の影響も加わり、世界の水を取り巻く環境はさらに悪化することが予想されている。

 国際機関、政府関係者、企業、NGO、一般市民などのすべて利害関係者が一同に会してあらゆる視点から水問題を議論し、問題解決のための具体的な行動を策定するための第3回世界水フォーラムが、2003年3月16日から23日まで琵琶湖・淀川流域である京都・滋賀・大阪を結んで開催され、当初の予想を大きく上回る25,000人近くが世界各地から参加した。以下に、今回の世界水フォーラムの概要を報告する。


  世界水フォーラム(World Water Forum; WWF)は、国連教育科学文化機関(UNESCO)、世界銀行、国際水資源学会(IWRA)などが中心となって1996年に設立された水に関わる国際政策検討のためのシンクタンク「世界水会議(World Water Council ; WWC)」の提唱により、21世紀の国際社会における水問題の解決に向けた議論を深め、その重要性を強くアピールすることを目的として、「国連水の日(3月22日)」を含む期間に3年に一度開催されている。第1回は1997年モロッコ・マラケシュで、第2回は2000年オランダ・ハーグで開催された。ハーグでは、水問題解決にはすべての人の参加が重要である」ことを訴えた「世界水ビジョン」を発表すると同時に,閣僚級国際会議において水問題の課題と実行に向けた世界的枠組を提示した「ハーグ閣僚宣言」を採択した。その後、2000年の国連ミレニアムサミットにおいて「2015年までに安全な水にアクセスできない人々を半減する」という目標(国連ミレニアム開発目標;MDGs)、2002年9月の持続可能な開発のための世界首脳会議(WSSD)において「2015年までに衛生施設を持たない人々を半減させる」という具体的な目標が相次いで設定されたのを受け、アジア初の開催となる第3回世界水フォーラム(WWF3)では、これらの過去の水関連国際会議における決定事項や、目標達成のための手段の実施状況をフォローアップするとともに、さらなる具体的な行動を策定することを目的して、国連を含む関係国際機関、各国政府関係者、産業界、研究者、NGO、一般市民などが参加し33テーマ・約350の分科会に分かれて議論する「フォーラム」と、国際機関および各国の水関係閣僚が閣僚宣言の合意を目指す「閣僚級会合」が開催された。


(水サービスの民営化について討論者に質問する参加者)
  フォーラムでは、第2回から議論の中心となっていた「水サービスにおける官民の連携」や「資金問題」さらに「ダムと持続可能な開発」などテーマで活発な議論が行われたほか、今回は初めてテーマとして取り上げられた「水と気候変動」が注目を集めた。「水と気候変動」の分科会は、気候変動と水問題について情報交換と政策提言することを目的に、IPCC、FAO、UNESCO、UNDP、世界銀行、国際自然保護連合(IUCN)などが参加して設立された国際組織「水と気候の対話(DWC)」が中心となって議論が進められ、「水と気候変動の関係解明や気候変動のリスクと適応措置を検討するために、気象観測方法や気象予測技術の改善・精緻化が必要であると同時に、水部門と気候部門の専門家における情報交換が重要である」との認識を参加者が共有し、そのために「国際水気候連合(International Water and Climate Alliance)」を結成することを公約した。またWWF3でDWCから公表された水と気候変動に関する報告書は、今後IPCC第4次評価報告書における「水と気候変動」の本格的な議論の参考にされていくことになる。尚、各テーマ・分科会における議論は「フォーラム声明文」としてまとめられ公表されるほか、6月に開催されるエビアン・サミットに提出される予定となっている。

  当初参加予定だったフランス・シラク大統領や川口外務大臣は欠席したものの、扇国土交通大臣を含む170を越える各国の閣僚、及び国際緑十字代表ゴルバチョフ代表を含む43の国際機関代表が参加した閣僚級会合は、イラク攻撃開始のため会場警備がさらに厳重となった会期終盤の22日と23日に国立京都国際会館で実施された。閣僚級会合では、3月10日までに世界の36ヶ国および16の国際機関により寄せられた水問題解決に関する422件の自主的なプロジェクトをまとめた「水行動集」が発表されたほか、参加閣僚が「安全な飲料水と衛生」「食料と農村開発のための水」「水質汚濁防止と生態系保全」「災害軽減と危機管理」「水資源管理と便益の供給」の5つの分野に分かれ、一部一般参加者を交えて議論を実施し、「閣僚宣言-琵琶湖・淀川流域からメッセージ」としてまとめられた。「閣僚宣言」では、「気候変動の影響を含む地球規模の水循環の予測及び観測に関する科学的研究の推進と情報共有システムの開発」や「災害の被害を最小限にするために、データ・情報・経験の共有と交換を国際的に実施。水管理者に最善の予測・予報手段を提供できるように科学者などの関係者の協働を奨励」など、気候変動に関する指摘が取り入れられる一方で、今回のフォーラムでも議論の中心となり、フォーラムでは民間参入賛成派・反対派双方の参加者間で合意を得ることができなかった「水サービスにおける官民の連携・資金調達における民間資本の導入」については、「MDGsおよびWSSD目標達成のためには、水供給及び衛生施設に対する莫大な投資が必要で、このために公的・民間部門双方において、財政的及び技術的資源を動員するための集団的努力が必要」とするなど、フォーラムの成果とは一線を画す結果となった。

  国連の定める「国際淡水年」の最初の国際的イベントであった第3回世界水フォーラムの成果は、6月のフランス・エビアンG8サミットで再度議論される予定であるが、イラク戦後復興やWTO問題などの優先課題の影に隠れてしまう可能性も指摘されている。イラク攻撃により水供給源を断たれた人々のニュースが世界を駆けめぐる一方、現在も、日常生活の中で水関連の病気で苦しみ命を落す人々が世界には多数存在している。水は「現在」における生活の基本的な要求を満たすために不可欠なものであり、また一部のNGOが指摘していたように「基本的人権」に関わるものである。主に将来世代に渡る影響が懸念されている気候変動問題との大きな相違点はこの部分であるといえる。持続可能な開発の実現という視点からも、特に開発途上国の本問題に対する注目度、および優先順位は大変高いという印象が残った。「2015年までに、安全な水にアクセスできない人、および安全な衛生施設にアクセスできない人」を半減させる国際的な目標の達成に向けて、今回の会合の成果を日本を含む国際社会がどのような具体的行動に結びつけていくのか大いに注目される。


尚、フォーラムに関する詳細は、「第3回世界水フォーラムについて」、および「第3回世界水フォーラム出張報告」をご参照下さい。

(文責:高橋 浩之)

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