令和7年度 排出クレジットに関する会計・税務論点等 調査研究委員会 要約


■ まえがき ■

 2015年パリで行われたCOP21/CMP11において、2020年以降の新たな気候変動に係る国際枠組みを規定するパリ協定が採択された。COP27 までにパリ協定における具体的な実施細目等の多くが解決し、2050年でのカーボンニュートラル実現への向けた取り組みが加速している。COP30は米国政権交代後初のCOPであり、その影響が注目される中、議長国ブラジルが意欲を示していた「化石燃料からの転換に関するロードマップ」策定は見送られ、適応資金を3倍に増やすことについては、2030年ではなく2035年までに先延ばしになり、資金拠出についても先進国の義務としてではなく努力目標に弱められる結果となった。
 当研究所では、従来から京都メカニズムの会計・税務問題について調査研究を進め、国内排出クレジットに関する会計・税務問題についても幅広い調査研究を実施してきた。今年度も、これまでに蓄積してきた知見をベースに、会計・税務の観点を踏まえて、引き続き気候変動に関する諸問題についての最新動向等について調査研究を行い、産業界さらにはわが国としての気候変動対策の推進に資することを本委員会の趣旨とする。


■ 名 簿 ■

委員長: 黒川 行治 慶應義塾大学教授 名誉教授
 
委 員: 伊藤  眞 公認会計士
委 員: 大串 卓矢 株式会社スマートエナジー 代表取締役社長
委 員: 髙城 慎一 八重洲監査法人 社員 公認会計士
委 員: 髙村ゆかり 東京大学 未来ビジョン研究センター 教授
委 員: 武川 丈士 森・濱田松本法律事務所 パートナー 弁護士
委 員: 村井 秀樹 日本大学 商学部・大学院教授
(五十音順・敬称略)
(令和8年3月現在)
事務局  
     蔵元  進 一般財団法人 地球産業文化研究所 専務理事
     前川 伸也 一般財団法人 地球産業文化研究所 地球環境対策部長 主席研究員
 
(令和8年3月現在)


■ 第1章 開題 ■

令和7年度排出クレジットに関する会計・税務論点等調査研究委員会

開題――Think Globally ,Act Locally――

                       

委員長 黒川行治


  1.科学的根拠を否定したトランプ政権下での2回の研究委員会


 地球温暖化に対する予想を超えるトランプ政権の対応に驚き以上の思いが込み上げる。日本経済新聞2026年2月14日の朝刊(12版3頁)によると,トランプ大統領は2月12日に,オバマ政権下の2009年に米国環境保護局(EPA)が出した「温室効果ガスが公衆の健康・福祉を危険にさらしている」という科学的認定を撤回したという。
すでに温室効果ガス排出世界2位である米国をパリ協定から再離脱させ,化石燃料の増産を進めているトランプ政権の任期は,まだ3年弱残っている。このような状況において,約25年継続する排出クレジットに関する会計・税務論点等調査研究委員会は,令和7年度(2025年度)も例年どおり2回開催され,地球温暖化対策に関する世界情勢と日本の政策について,最先端の報告と議論が行われた。
 第1回研究委員会は2025年12月19に開催され,3人の講師による3のテーマでご講演をいただいた。なお,蔵元進専務理事の講演に先立つ委員会開催の挨拶の中に,COP30の開催地であるブラジル・ベレンの厳しい宿泊状況等についての言及があり,委員会出席者一同,現地で活動された方々への同情と無事帰国されたことへの祝福の気持ちが広がった。講演者とテーマは以下のとおりであり,それらを順不同で紹介することにしよう。高村ゆかり委員(東京大学教授)から「COP30の結果と気候変動に関わる最近の動向」と題するご講演,吉高まりオブザーバー((一般社団法人)バーチャルデザイン代表理事・慶應義塾大学環境情報学部特別招聘教授)から「金融から見た気候変動関連動向」と題するご講演,木村範尋METIオブザーバー(経済産業省GXグループ地球環境問題交渉官)から「COP30 について」(COP30の開催現地であるブラジル連邦共和国パラー州・ベレンの雰囲気や会議の進捗状況など)諸々のお話を伺った。
 第2回研究委員会は2026年2月13日に開催され,経済産業省GXグループ環境経済室室長補佐の中山竜太郎様から「2026年度より開始する排出量取引制度について」と題するご講演をいただき,委員およびオブザーバー各位によって当該政策に関する活発な意見交換がなされた。
 本報告書に掲載される講演および報告資料は,第1回研究委員会および第2回研究委員会における報告内容である。ご講演をしていただいた講師諸氏,ならびに活発な議論に参加していただいた委員およびオブザーバーの皆様に,心より感謝申し上げます。

2.米国環境保護局(EPA) による主な温室効果ガス規制


 米国環境保護局(EPA)が出した「温室効果ガスが公衆の健康・福祉を危険にさらしている」という科学的認定のトランプ大統領の撤回によって,後退が危惧される地球温暖化対策の主な規制について,日本経済新聞2026年2月14日の朝刊(12版3頁)に,その一覧が掲載されている。

①自動車の排ガス: 2032年までに新車販売の35-56%をEVに。
②商用車の排ガス: 2027年以降に段階的に電動車などへの移行。
③新設の火力発電所: 発電所にCO2の回収・貯留装置の設置。
④既設の火力発電所: 2039年以降も運転予定の場合,CO2の回収・貯留装置を設置。
⑤石油・ガス生産時のメタン: 採掘時に発生するメタンガスの漏洩防止。

関連記事によると,カリフォルニア州の「2035年までにガソリン車の新車販売を全面禁止する規制」はこの危険性認定を根拠としており,トランプ政権による認定撤回に従えば,規制は効力を失うとみられるという。自動車業界のみならず電力・エネルギー産業の投資戦略,そして再生可能エネルギー生産全般の技術開発への負の影響が危惧されるのである。

3.Think Globally ,Act Locallyの意義


 “Think Globally ,Act Locally”という用語は,知己の牧師の方から教えていただいたキリスト教で使用されている標語で,その牧師さまの説明によると,「地球規模で考え,身の周りで活動する,身近な課題に取り組むという意味の言葉・・・。私たちそれぞれは神様から生かされる場があり,その置かれた場で御心を求める」ということである。私は,このご説明を聞いて次のように解釈・理解している。宗教的,例えばキリスト教であれば,世界の平和と幸福こそが神さまの御心であってそれを最善の目標として考え,一方,個人としては「自分が人からしてほしいと思うことは,何でも同じように人にもしなさい」という「黄金律」として知られている普遍的な倫理規範を常に内に宿して行為をすることであろう。公共哲学の観点で考えると,社会の正義,公平,基本的人権の確立を世界の目標として考え,一方,社会の最小単位である私たち個人は,それぞれの個性や環境は多様で異なっているとしても,自分の置かれた状況で,倫理的・道徳的規範に従って自分のでき得る最善の努力・行為を積み重ねていくということであろう。
 さて,国際的監査法人のパートナーであった友人に,この“Think Globally ,Act Locally”という用語を話したところ,その友人はびっくりして,「この用語はキリスト教の標語がもとにあったのか。国際的監査法人内ではこの用語は,監査の基になる会計基準は国際的なもの(すなわち『国際財務報告基準』)を念頭において,実際の監査実務は被監査企業それぞれの国の環境に応じて行うという意味で使用していた」というのである。
本研究委員会では,例年どおり,今年度も経済産業省の担当官の方から,わが国(日本)の地球温暖化問題への対応政策を詳細に報告していただいた。地球環境問題,地球温暖化問題は,その名のとおり地球の,国際的な,社会全体の課題であり,この課題に対して地球規模の国際的に一致協力した目標の設定と解決策を策定する一方,個々の国は,それぞれの国情を考慮しつつ,世界全体の目標に貢献する個々の国の政策を考案し行動していくことが求められ,多くの国が実行している。パリ協定の趣旨は,まさにこの標語の示すこと一致しているのである。

4.Think Locally ,Act Globally


 私たちの人間社会は,現在,行き過ぎた金融資本主義がもたらした個々人の社会的格差・貧富の拡大,そして国間の政治的軋轢の高まりの中にある。“Think Locally ,Act Globally”,すなわち,自分中心に物事を考え自己の効用最大化を実現するために,社会全体に対して影響を及ぼす行為が行われていることはないのだろうか。私たちは,それらの現実を国際政治,国内政治の世界で確認しているのではないか。為政者の社会政策はその為政者を選んだ個々人に還元される。であるからこそ,社会の構成員である私たち個々人が“Think Locally ,Act Globally”になっていることはないのかと省みることは大切である。
 今一度,前述したように多様な適用解釈が可能な用語である“Think Globally ,Act Locally”という標語を思い浮かべようと思う。
(2026年2月末脱稿)

■ 第2章 国内外の政策動向について ■

 
 
・<情報提供> >COP30について(経済産業省)
 
 
 

■ 第3章 気候変動に関わるファイナンスについて ■

 
・3-1 金融から見た気候変動関連動向
(一般社団法人バーチュデザイン)


■ 第4章 議事要旨 ■

令和7年度委員会議事要旨






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